岩本裕子研究室

PROFESSOR HIROKO IWAMOTO'S OFFICE

【NO.18】教皇選挙とは何か:We have a Pope に至るまで

Posted on 5月 2, 2025

皆さま、こんにちは。岩本裕子です。埼玉県にある浦和大学で教員をしております。本日の「岩本裕子研究室 映画コラム on YouTube」では、少々時事的な内容になるかもしれませんが、ローマ教皇についてお話ししたいと思います。

2月から体調がすぐれず心配されていた教皇ですが、復活祭翌日の4月21日に逝去されました。復活祭当日にサンピエトロ広場にお姿を見せられたときには、「ああ、回復されたのだな」と安心したのですが、その翌日に亡くなられたのです。復活祭までは、と必死に職務を全うされたのですね。26日には葬儀が執り行われましたが、今回は葬儀の様子には触れず、映画コラムらしく映画にまつわるお話を進めたいと思います。

教皇を題材にした映画は数多く存在します。日本では『ローマ法王の休日』の邦題で知られる2011年の作品についてお話ししようと思っておりました。ところが、今まさに上映終了が近づいているなか、再び観客が押し寄せている映画『コンクラーベ』について、お話ししたいと考えるようになりました。

実は、今年2月のニューヨーク出張の際、往復の機内で本作が最上位にリストアップされていて、観ることはできたのですが、やめたのです。キリスト教関連の映画は、常に十分な予備知識をもって鑑賞したいと考えています。以前『ダ・ヴィンチ・コード』の際には原作を熟読し、複数の解説書を読んだうえで映画館に足を運びました。『コンクラーベ』も教皇選挙を扱う以上、十分な準備を整えずに観るのは控え、機内では別の作品を見ました。その選んだ映画のお陰で、『ウィキッド』の回を皆さまにお届けすることができました。

ではまず、「コンクラーベ」という言葉の語源についてご説明します。ラテン語の clave(鍵)に由来し、接頭辞 con が「〜と共に」という意味を持つことから、「鍵と共に」という意味になります。教皇は、世界で唯一「天国の門を開く鍵」を持つ存在とされています。イエス・キリストは金曜日に磔刑になり、日曜日に復活します。その後、三度にわたりイエスを知らないと答えた最初の弟子、ペテロこそが、初代教皇となり、イエスから天国の門を開く鍵を授けられたのです。この場面は多くの絵画にも描かれています。

サンピエトロ広場は、その初代教皇ペテロにちなんで名づけられた広場です。ただの広場ではなく、逆十字にかけられたペテロに由来する、特別な場所です。なお、「フランシスコ教皇」ではなく「フランシス教皇」と呼ばせていただきます。英語では Pope Francis と表記されるため、それに準じます。

本来は『ローマ法王の休日』について語るつもりでした。この作品は教皇が決まったときに使われる「We have a pope(教皇が決まりました)」という言葉にちなんだもので、ラテン語の「habemus papam」が由来です。日本公開時は新宿の単館映画館で鑑賞しました。当時は「ローマ法王」という表現が一般的でしたが、現在は世界史の教科書でも「教皇」という表記が用いられています。

この映画では、教皇を決める際、誰もがその役目を引き受けたくないという状況が描かれています。投票を行うのは、大司教、すなわち頭に赤いカージナル(枢機卿帽)をかぶった枢機卿たちです。彼らの投票によって選ばれた新教皇も、「なりたくない」と訴え、ついにはローマの町へ飛び出していってしまう。それが『ローマ法王の休日』の物語です。

今回とりあげる『コンクラーベ』、すなわち教皇選挙を題材にした映画は、本当にいい作品でした。もちろん、撮影はセットで行われていますが、システィーナ礼拝堂での投票の様子が非常に丁寧に描かれています。バチカンに旅行されたことのある方ならご存じかと思いますが、バチカンの美術館を巡り、その最後にたどり着くのがシスティーナ礼拝堂です。そこで目にするのは、ミケランジェロによる天井画や壁画ですね。

だいぶ前に訪れたという方から伺った話では、かつて天井画は真っ黒に汚れていたそうです。それが現在のように美しく修復されたのは、実は日本の某テレビ局がスポンサーとなって修復事業を支援したためだそうです。そのおかげで、私たちはあの鮮やかな姿を目にすることができるのです。ミケランジェロの天井画、さらに壁画として有名な『最後の審判』があり、映画の中でも特に『最後の審判』の下部が何度も映し出されます。そうした細部をじっくりと楽しむのも、この作品の大きな魅力だと思います。

映画で興味を引いたことが一つ、二つあります。教皇に選ばれた人物は、自身の本名ではなく「教皇名」を名乗るのが慣例です。先ほどお話しした、システィーナ礼拝堂の建設を命じた教皇シクストゥス4世(1471年即位)は、即位から6年目に礼拝堂の建設を始め、15世紀末には完成させました。このシスティーナ礼拝堂の名前の由来となったシクストゥス4世については、今回このお話を準備する中で、私自身初めて知ったことです。

映画の中で、2つの教皇名が登場します。その名前が最終的に誰に決まるのかは、ぜひ映画をご覧になって確かめていただきたいと思います。一つは「ヨハネ」、英語では「ジョン」にあたります。もう一つが「インノケンティウス」です。映画でその発音を耳にしたとき、「ああ、イノセント(innocent)、無垢や純粋、世間知らずといった意味か」と気づき、「この名前を選ぶとは、さすがだな」と感心しました。

現実世界でも、これからコンクラーベ(教皇選挙)が行われます。その影響もあって、各地の映画館では上映期間が延長されるのではないかと思いますので、ぜひ足を運んでみてください。ただ、パンフレットは現在ほとんどの劇場で売り切れているようです。私は、少々努力して入手したのです。観に行ったのは新宿の某映画館ではなく、私の本務校である浦和大学(さいたま市)の近くにある映画館では、パンフレットがまだ沢山残っていました。ネタバレ部分は避け、必要な情報だけを確認して予習したうえで、映画を鑑賞してきました。

「サスペンス」と銘打たれてはいますが、実際には恐ろしい場面があるわけではありません。物語は一転二転し、「え、ここでジョンになるの?」と驚かされる場面や、「最終的にはインノケンティウスなのか」という意外な展開が描かれます。映画は、まさに現代の世界情勢を色濃く反映しており、それとは対照的な価値観を持つアメリカ社会とは大きく異なる姿勢が示されています。さまざまな人間のあり方を深く受け止め、現代の状況をそのまま投影するような教皇像が描かれており、大変印象的でした。時代とともに映画は変化する――映画はまさに、時代を映す鏡なのだと改めて感じさせられます。

コンクラーヴェ、日本語では「教皇選挙」と訳されますが、この天国の門を開ける鍵を託された教皇、ポープ・フランシスの後任が誰になるのか、非常に注目されます。どうか皆さん、普段あまりニュースをご覧にならない方も、この機会にぜひ関心を持ってニュースを追ってみてください。ニュースの積み重ねが歴史となります。歴史とは、単なる暗記ではなく、考えること、思索し続けるものです。皆さんとともに、新しい教皇を迎える瞬間を見届けたいと思います。

それでは、「岩本裕子研究室 映画コラム on YouTube」第18回をこれにて終了いたします。次回もまた皆さまにお耳にかかれることを楽しみにしております。本日もお聴きくださり、ありがとうございました。ごめん下さいませ。

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