岩本裕子研究室

PROFESSOR HIROKO IWAMOTO'S OFFICE

【#10】『沈黙-サイレンス-』:「主よ、あなたはなぜ黙ったままなのですか」

Posted on 7月 31, 2017

今日で7月も終わり、明日から8月というのに、本学は今日から試験週です。8月1週目が4月から数えて16週目となり、今週で試験が無事終われば、大学生はやっと夏休みです。すべての試験が終わった翌日、8月5日はAO第一期入試となります。受験生の皆さんは、頑張ってください!

私からは、夏休み前の「宿題」を提出します。年明けに公開された『沈黙』について、少しずつしかお話しできず、前回第9回でも、『ハクソーリッジ』に紙幅を取られ、説明不十分となりました。前回、宗教に関して日本人が、無関心、無頓着であるばかりか、偏見すら持っていて、警戒心を持っていることを書きましたが、コラムを読んでくれた多くの学生たちがそれを認めるような感想をくれました。

高校の世界史では、暗記のために勉強したはずの「キリスト教」について、ここで復習することから始めましょう。今日試験を予定している「歴史入門」では、大きなテーマでもあります。後期開講の「アメリカの生活と文化」での年末最終講義のテーマ、クリスマスにつながります。

宗教に偏見を持っているはずの日本人が、なぜ「クリスマス」で大騒ぎするのか、毎年不思議に思ってきました。キリスト教徒にとってクリスマス以上に大切な「イースター」に関しても、きちんとした知識もないままに、お祝い気分でいる日本の商戦を目撃したのは4月上旬でした。今年のイースターは、4月16日日曜日でした。

金曜日に磔刑になったイエス・キリストが、二日後の日曜日に復活することを祝う日で、ユダヤ人である聖母マリアから「神の子」として生まれたことを祝うクリスマスよりも、重要な意味があります。人間であれば「復活」することはありえず、「神の子」だからこそ生き返り、弟子たちに復活したことを伝えて、そこから弟子たちによるキリスト教伝道が始まるのですから。復活しなければ、現在のキリスト教は存在しないはずです。

その復活祭(イースター)は、「春分の日のあとの満月の次にくる最初の日曜日」と決められていて、今年はずいぶん遅い日曜日となりました。満月になるまでに時間がかかったようですね。復活することから、多産な動物である「ウサギ」が象徴的に用いられて「イースター・バニー」と呼ばれたり、まさに生まれるための「卵」によって、「イースターエッグ」と呼ぶのです。

復活祭の1週間前、今年は4月9日日曜日が、Palm Sundayでした。イエス・キリストがエルサレムに入った時に、人々がシュロ(Palm)で、路上を掃き清めて迎えたという逸話(エピソード)にちなんでいます。聖週間(受難週)の始まりです。受難、つまりこの週の金曜日に、イエス・キリストはゴルゴダの丘で磔刑になったのです。3月1日、灰の水曜日から始まったレント(四旬節、受難節)最後の週の始まりが、Palm Sundayです。

キリスト教にとって、というより、すべての宗教にとって「暦」はとても重要な要素です。太陽暦に基づく西洋の教会暦を、太陰暦であった16世紀の日本のキリスト教徒たちは、太陽暦に数え直して、キリスト教の祝い事をする必要がありました。前回お話ししたように、1549年8月15日(聖母マリア昇天祭)、フランシスコ・ザビエルが鹿児島に入ってから今年で468年目になりますが、長崎では、17世紀初めに江戸幕府によって聖職者が追放されて、一人の司祭も残らないままとなりました。ところが、「潜伏キリシタン」と呼ばれることになる地元の人々は、密かに信仰と祈りを守ったのです。この時代が舞台となったのが、映画『沈黙』でした。

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