岩本裕子研究室

PROFESSOR HIROKO IWAMOTO'S OFFICE

【#04】「年始に考える:ポピュリズムと向き合うためにできること」映画『パール・ハーバー』

Posted on 1月 10, 2017

ドリス・ミラーという黒人水兵

最後にもう一人、実在の人物を紹介します。

2016年12月27日午前に、アリゾナ記念館での献花を終えた日米両国の首脳によって演説が行われましたが、ここで紹介したいのは、オバマ大統領の演説で言及された黒人兵(African American Messman)です。オバマ大統領の演説では、何人もの実在の人物の実名が紹介されていましたが、この黒人兵に関しては実名を出していませんでした。ドリス・ミラーという海軍に所属する三等水兵(給仕兵)がいたのです。

映画では、キューバ・グッディング・ジュニアが演じていました。映画『ザ・エージェント』(1996)でアカデミー最優秀助演男優賞を受賞した俳優です。大戦中の黒人兵士は、武器を持つことを許されず、ミラーのような給仕や雑役を担当する非戦闘員でした。日本軍による爆撃を受けて負傷した白人兵に代わって、対空機銃座に座り日本軍に反撃する様子が、映画では描かれていました。ミラー本人は、この武器を持つという行為によって処罰されるのではないかと心配したと伝えられています。ところが実際には、この行為が高く評価されて、ドリス・ミラーはアメリカ黒人として最初の海軍十字章(殊勲章)を受賞したのでした。

後日談ですが、ミラーは2年後の1943年11月に、南太平洋のマキンの戦いで、日本軍の潜水艦の攻撃を受けて、戦死しました。黒人兵ミラーの活躍は、この後のアメリカ軍隊における黒人兵に大きな励みとなったことは間違いありません。祖国アメリカに戻ると待っている人種差別を自覚はしていても、命をかけた戦地においては、ひととき人種を超えた戦いをすることは、黒人兵にとっては気持ちが解放される場ともなっていたのです。

「ポピュリズム」と向き合うためにできること

『パール・ハーバー』は3時間余りに及ぶ大作で、真珠湾攻撃の場面だけでも30分以上使っています。こども学部の「アメリカの生活と文化」では、攻撃場面を13分程度に編集して、さらに前述したFDRの登場部分を見せるようにしています。ただ流すだけでは十分に理解できない学生たちのために、何カ所も一時停止させて、説明を加えることも忘れません。講義終了前には「興味を持った人たちは、全篇を見て下さい!」と話して、冬休み前提出レポート課題映画の一つに加えてもいます。

安倍首相による訪問で、日米両首脳が真珠湾攻撃に関して、それぞれにメッセージを世界へ発信しました。真珠湾に眠る戦死者の霊を慰めるという行為と、戦争を繰り返さないというメッセージ・・・。たった今も、世界中でシリアや南スーダンで内戦などの争いが繰り返されて、多くの子どもたちや女性たちが戦火の下を逃げ回っています。難民を受け入れようとしない、「ポピュリズム」一言で片付けられそうな「新政権」が、アメリカ合衆国をはじめとする世界各地で誕生しようとする2017年の始まりです。

大学生として、あなたには何ができるでしょうか?こんな世界のことをしっかり学んで、今の自分に何ができるのかを考えてほしいと思うのです。そのための一助として、映画『パール・ハーバー』を観ることは、きっとあなたに力を与えてくれるはずです。新しい年を迎えて、大学生のあなたが、自分のことだけでなく世界のことも、世界中の子どもたちのことも考えられるようになってくれることを、年始に願っています。

次回は、何か楽しくなるような映画を選びたいのですが、たぶんみなさんにはまた難しいと思うような映画になる予感がしています。近日公開予定作で、私は今月末には、映画館で『沈黙 サイレンス』を観る予定ですので。遠藤周作の同名原作を、カトリック教徒のマーティン・スコセッシ監督が28年間の時を経て映画化した作品です。

今年もみなさんが、考えながら成長する年となりますように!