岩本裕子研究室

PROFESSOR HIROKO IWAMOTO'S OFFICE

【NO.14】Nice to see you again. ニューヨーク出張報告・その2

Posted on 3月 16, 2025

皆様、こんにちは。岩本裕子です。埼玉県にある浦和大学で教員をしております。

岩本裕子研究室の映画コラム「ON YOUTUBE」第14回をお聞きいただき、ありがとうございます。

本日の録音日は2025年2月22日(土)です。すでに第13回をお聞きくださり、続けて第14回をお聞きいただいている方のために、ここではウクライナに関する話は控えます。

さて、今回はニューヨーク出張報告の続きです。第13回では、ニューヨークで日中どのような仕事をしていたかについてお話ししましたが、第14回では夜の過ごし方についてお話ししたいと思います。

ニューヨークは「眠らない街」と言われるほど、夜も活気に満ちています。昼間、ハーレムで仕事をした私は、夕方にはマンハッタンの中心部へ戻ってきます。滞在していたホテルはタイムズスクエア近くの49丁目あたりにあり、劇場街(シアター・ディストリクト)まで徒歩で行ける距離でした。仕事で使う重い荷物はホテルに置き、夜はミュージカルやコンサートを観に行く、そんな日々を過ごしていました。

今回の出張を2月に設定した理由の一つは、オペラを観るためでした。しかし、コロナ禍を経て、オペラのスケジュールも変化したのか、私が滞在した時期にはちょうど中休みの期間に入っていました。2020年2月下旬、コロナ禍直近にニューヨーク出張したときには、三日三晩オペラを観ることができたのですが、今回は叶いませんでした。そのため、夜はミュージカルや劇、コンサートを中心に観ることになりました。

まず、到着した日(日曜日)に観たのは、A Wonderful World: The Louis Armstrong Musical という作品です。英語の発音では「ルイス・アームストロング」ですが、フランス語では「ルイ」と発音されるため、日本では「ルイ・アームストロング」として知られています。いわゆる「サッチモ」の人生を描いたミュージカルでしたが、実際には演劇要素が強く、サッチモの名曲やトランペット演奏もありながら、語りの部分が多い作品でした。そのため、純粋なミュージカルというよりは、演劇に近い印象を受けました。

翌日は『ジプシー』を観ました。この作品には、私が敬愛するオードラ・マクドナルドが主演していました。彼女はオペラ歌手としての経歴を持ちながら、ブロードウェイの劇やミュージカルの主演を次々と務めた黒人女優です。彼女について、複数の論文を書いてきましたので、詳しく知りたい方は、私のHP論文コーナーをご覧ください。

『ジプシー』というタイトルそのものは、蔑視表現なので、問題ではありますが…。

この作品は、実在した白人女性歌手「ジプシー・ローズ・リー」をモデルにした物語です。今回の舞台では黒人女優が彼女を演じています。かつて、私はオードラ・マクドナルドが主演した『ビリー・ホリデイ』の舞台を観劇した際、2日連続で出待ちをし、彼女と直接話をする機会がありました。その時、彼女が「日本でアフリカ系アメリカ人女性について教えているの?」と驚きながらも興味を持ってくれたことが、私の研究活動への大きな励みになりました。今回も彼女に会えるかと思い、お土産を準備していたのですが、残念ながら舞台後、出待ちコーナーには姿を現しませんでした。

次に、今回の出張で訪れたもう一つの特別な場所、カーネギーホールについてお話しします。カーネギーホールは夏季休業期間が長く、クラシック音楽のコンサートを聴くためには秋から冬にかけて訪れる必要があります。私が行ける日に何があるのか調べたところ、ジョージア州の大学が主催するコンサートが開催されることがわかり、チケットを購入しました。普段、ニューヨーク・フィルハーモニックなどのコンサートでは100ドルから200ドル程度のチケット代がかかりますが、この大学のコンサートは20ドルという驚くべき価格でした。

私が初めてカーネギーホールを訪れたのは1991年3月のことです。当時、前任校で助手をしていて、科研費処理のためにニューヨークを訪れました。初めてカーネギーホールに入り、スターン・オーディトリアムの扉を開けたとき、歴史の重みを持つ特別な空間に圧倒されたことを、今でもはっきり覚えています。あれから30年以上経った今でも、その感動は色褪せることなく、今回の訪問でも同じ気持ちを抱きました。

カーネギーホールが舞台となった映画には、『Music of the Heart』があります。この作品は、マンハッタンのイースト・ハーレムにある公立小学校の音楽教師がバイオリン教育を行う実話を基にしたもので、メリル・ストリープが主演を務めました。

特にラストシーンでは、カーネギーホールで子どもたちのバイオリン発表会が行われ、本物の音楽家たちと共演する場面が感動的です。映画には、カーネギーホールの存続に尽力したバイオリニスト、アイザック・スターンも登場します。彼はニューヨーク・フィルがリンカンセンターに移転し、カーネギーホールが閉鎖の危機に瀕した際、その再建に尽力した人物です。

また、カーネギーホールに関連する映画として『グリーンブック』も挙げられます。この作品では、黒人ピアニストが、公共施設で人種隔離政策をとるアメリカ南部を公演する際に、黒人が宿泊できるホテルをまとめた実在のガイドブック「グリーンブック」が登場します。映画では、彼がカーネギーホールの上階に住んでいるという設定になっていました。『グリーンブック』については、私の映画コラムにも取り上げていますので、興味のある方はご一読ください。

歴史は単なる暗記ではなく、考え、継承していくものです。知らないことは決して罪ではありません。自分が知らないのだということを知ったとき、「もっと知りたい」と思うことが大切なのだと、私は思います。周囲に知識を共有してくれる人を見つけ、その話を次の世代へと伝えていくことが、歴史を継承することにつながるのだと思います。

本日はこれで、岩本裕子研究室の映画コラム「ON YOUTUBE」第14回を終了いたします。次回、またお耳にかかれることを楽しみにしております。本日もお聞きくださり、ありがとうございました。