【外国史連載】第2回 イスラム教の長兄はユダヤ教、次兄はキリスト教
Posted on 2月 12, 2019
「アメリカ同時多発テロ事件」と呼ばれる出来事が起こりました。2001年9月11日朝(アメリカ東部時間)、マサチューセッツ州ボストン(ローガン空港)、ワシントンD.C.近郊ヴァジニア州にあるダレス空港、ニュージャージー州ニューアーク空港を発った4機の旅客機がハイジャックされて、4カ所で乗客共々爆発したのです。世界貿易センタービルが2本とも崩れ落ちる映像を見たことがある人も多いでしょう。
なぜあのようなテロ事件が起きたのでしょうか?イスラム教徒によるテロ組織、「アルカイダ」による犯行として、サウジアラビア生まれの首謀者オサマ・ビンラディンは指名手配されました。彼を追い続けていたアメリカ軍は、ついにパキスタンで彼を見つけ、2011年5月に殺害したのです。その顛末は、映画「ゼロ・ダーク・サーティ」になりました。
なぜイスラム教徒はアメリカ合衆国をねらったのでしょうか?特に、ニューヨークが・・・。ニューヨーク市には、ユダヤ人が多く住んでいるため、ジュー(Jew)ヨークと呼ばれることがあります。ジューとはユダヤ人のことです。
合衆国は、18世紀の建国初期から元々 WASP(ワスプ)と呼ばれる人たちが社会の主流をなしてきました。Wは白人、ASはアングロサクソン民族、Pはプロテスタント(キリスト教)です。つまり、アメリカ社会の中心的位置にキリスト教のプロテスタントの人々がいるということです。第1回説明したカトリックの最高位であるローマ教皇に抵抗(プロテスト)したドイツ人聖職者ルターによって、502年前の1517年に宗教改革を起こしたことが出発点でした。
「歴史入門」で、ヨーロッパからアメリカに渡った講義後半では、「9月11日」はなぜ起こったのか?を解き明かすことをテーマにする講義をしています。講義前半、ヨーロッパの講義では、旧約聖書を描いたハリウッド映画を使いながら、アメリカ社会を考える準備をしています。
ユダヤ教徒の歴史書でもある旧約聖書を描いたハリウッド映画は沢山ありますが、1966年制作のThe Bible: in the Beginningは旧約聖書すべてを描くという無謀な企画は叶わず、創世記第1章天地創造から22章イサクの生け贄までを描いています。DVDのカバー写真ではアブラハムがイサクを抱えて神に捧げている写真が使われています。邦題は『天地創造』でした。
21世紀に入ってからも、ハリウッドは旧約聖書を題材とした映画を次々制作、公開していきました。いかに観客の需要があるかを示しています。ユダヤ教を全く知らない人でもきっと知っている「ノアの箱舟」の話が、Noah (邦題『ノア約束の舟』2014年)という映画になりました。全動物を一対ずつ入れて逃げるための巨大な舟(はこ)をノア一人でどうやって作ったのだろう、と言う素朴な疑問も解決してくれる映画です。舟が陸地に着いたことを知らせる動物が何か知っていますか?歴史入門では、この話をしますよ。その動物が口にくわえてきたあるものに関しても!
預言者モーセは、ハリウッド映画が大好きなテーマらしく映画化は数知れません。古くは、The Ten Commandments(邦題『十戒』1956年)があり、歴史入門ではそのクライマックス、シナイ半島につながる紅海が割れる場面をみんなで観ます。子どもの頃テレビで『十戒』を観て、その場面に圧倒された私は、大学生の頃(1970年代)ハリウッドスタジオツアーでその仕掛けを見ました。ダイナミックなはずのあの場面の撮影場所がこれ?と、余りのお粗末さに絶句したことが忘れられません。CG技術に慣れてしまった現在、あの設備を見ると「郷愁」すら覚えるでしょうが、今はもう存在しないのでしょうね。
同じ預言者モーセは、ユダヤ人のスピルバーグ監督による自らの出自への敬意を映像にしたアニメーションThe Prince of Egypt(邦題『プリンス・オブ・エジプト』1998年)にもなりました。
2014年はノアだけでなく、モーセも描きました。Exodus: Gods and Kings(邦題『エクソダス:神と王』2014年)です。紅海が割れるのは潮の満ち引きと関係した自然現象としていました。この場面を見て、フランスの世界遺産モンサンミシェルを思い出しました。大天使ミカエル(ミシェル)が現れて聖所を作った場所で、フランス革命時には牢獄の役割もした教会です。2017年秋の大潮の日に孤島となる瞬間を伝えたTV番組「恵みの潮が巡るとき」を見たとき、2003年に私が訪問したことを懐かしく思い出したものです。
長くなってしまったので、キリスト教徒にとって”Book” と称される新約聖書を描いたハリウッド映画については、次回とします。