岩本裕子研究室

PROFESSOR HIROKO IWAMOTO'S OFFICE

【#22】映画『ゴジラ』から考える反核意識

Posted on 3月 18, 2024

代表的なのは、フランス革命記念日をフランス人たちは、“le Quatorze Juillet”と呼び、そのフランス革命に影響を与えたアメリカ革命の独立記念日を、“The Fourth of July”と呼びますね。さらにアメリカ合衆国で、21世紀初年の9月11日に起こったことを、“September 11th” と…。東日本大震災のことを、欧米で”March 11th”を呼ぶ理由は、以上です。

さて、その3月11日(日本時間:アメリカ時間では3月10日日曜日)に、アメリカ西海岸ロサンゼルス市ハリウッドにあるドルビー・シアターでは、第96回アカデミー賞授賞式が開催されました。日本映画界が関係する3本の映画が候補作として選ばれて、2本までが最優秀賞を受賞したのでした。まず、長編アニメーション賞に関して…

実は私が使い始めて、まだ1年しか経っていないLINEからの報告をお見せします。

3月11日は一日中会議に追われたのち、やっと帰宅して、朝の生中継を字幕付きに編集した放送を観ました。今回の授賞式の結果に関して、このコラム用に整理します。

まず、長編アニメーション最優秀賞に、宮﨑駿監督作品「君たちはどう生きるか」(THE BOY AND THE HERON)が選ばれました。

さらに視覚効果最優秀賞を、山崎貴監督作品「ゴジラ・マイナスワン」が受賞しました。この映画を観に行った日のLINEをお見せします。

この映画を観に行った1週間後、「3月1日」は、70年前のことを考える日でした。

水爆ブラボー: 3月1日ビキニ環礁・第五福竜丸 (母と子でみる A 34)

ゴジラは、水爆実験と同時に発生したのではなく、大戦終了直後から続いた核実験の「産物」であることがわかります。ちなみに、「アメリカ人観客が評価したのは、なぜだろう?」に対して、的確な「回答」をくれたLINE友達がいました。その投稿をお見せします。

なるほど、なるほど、とありがたく拝読したので、ここでも引用させていただきました。

さて、今年古希を迎えたゴジラ…。広辞苑にも出ていて、こんな説明がなされています。「ゴリラとクジラとを合わせた造語。1954年作(中略)ビキニ環礁近くに太古より眠る生物が水爆実験の放射能で巨大化して日本を襲う。(中略)怪獣映画を世界的に流行させた」

この説明だと水爆実験で生まれたような印象ですが、正確には1946年から始まっていたアメリカ合衆国による核実験で生まれたことを、今回の映画「ゴジラ−1.0」で再認識しました。

このHPだけでなく、『五丁目新聞』でも連載をさせてもらっています。2021年3月11日に書いた原稿が連載初回でしたが、その原稿を最後に再録しておきます。3年前の想いは、映画「ゴジラ−1.0」を観た後、さらに強くなりました。

オッペンハイマー

当初、今回のコラムタイトルを「ゴジラとオッペンハイマー」としていたのですが、紙幅が尽きたので、後半部分は次号とします。
今月末に公開される映画「オッペンハイマー」は、原子爆弾製造計画(マンハッタン計画)の遂行地だった「ロス・アラモス研究所」の所長だった物理学者が主人公です。原子爆弾(ウラン+プルトニウム)完成を指導したものの、水爆製造に反対して、原子力委員会から追放された人物です。彼の伝記映画が、今回のアカデミー賞授賞式では、作品賞など7冠を獲得しました。その一つ、最優秀監督賞を受賞したクリストファー・ノーラン監督は「原爆の父の葛藤、複雑さと矛盾に向き合う価値がある」と述べたそうですが、詳細は次号に譲ります。

反核怪獣のゴジラと、核爆弾の父オッペンハイマーが、大きな話題となった第96回アカデミー賞授賞式が行われた2024年3月11日に、ウクライナでも、ガザ地区でも戦火が収まることはありません。現時点の世界状況を踏まえながら、この2本の映画が世に問う「反戦・反核」を、深く考えなければなりません。

では、また近々…。


「原発事故はなぜか春先に」『五丁目新聞』(2021年4月)

2011年3月11日午後2時46分、東日本大震災が起こったそのとき何をしていたかを、誰もが折に触れ話題にしてきたことだろう。あれから10年・・・。

大地震と津波だけでなく、連動して起こった福島第一原発事故によって、世界中で「フクシマ」と英語名で呼ばれる。ヒロシマ、ナガサキ、ヒバクシャと同様である。原発事故史上最悪と言われるフクシマは、現在進行形の「恐怖」であり続ける。

「ヒバク」という状態が核兵器だけでなく、「核の平和利用」と言われた原子力発電所の事故によって引き起こされることも、我々は経験した。核兵器使用以外でも、事故による「ヒバク」は起こりうる。「核の平和利用」を、唯一の被爆国である日本が行ってよかったのだろうか。地震大国の日本に原子力発電所を作ること自体大きな問題だったはずである。

自国の原発を止めているというのに、前安倍首相は外国遊説中に原発製造のセールスを行っていた。全くその認識を疑ったものである。福島第一原発事故は、世界中に「フクシマ」という地名を周知させてしまったが、フクシマ以前に20世紀中に二カ所で起きた。

人類初の原発事故を起こしたのはアメリカ合衆国ペンシルベニア州の州都ハリスバーグ付近を流れるサスケハナ川の中州にあるスリーマイル島だった。1979年3月28日に発電所第二号炉で事故が起きて、大量の放射能漏れを引き起こした。当時世界最大の事故となり、合衆国内でも原発反対運動が活発化した。

原子力発電所の問題を扱った映画に、『チャイナ・シンドローム』がある。テレビのキャスター(ジェーン・フォンダ)が原発取材中に事故に遭遇するというフィクションだが、スリーマイル島の事故以前に制作され、映画公開直後に事故が起きた偶然から注目された。事故4年後の1983年に、メリル・ストリープ主演で『シルクウッド』という社会派映画が制作された。核燃料(プルトニウム)工場労働組合の活動家、カレン・シルクウッドの半生を描いた作品である。安全規則違反と不正行為をめぐるスキャンダルを告発したシルクウッドは、28歳で1974年に謎の死をとげた。アカデミー賞監督賞、主演女優賞、脚本賞候補となったハリウッド映画人の気骨を痛感する秀作である。

名作『卒業』(1967年)で知られるマイク・ニコルズ監督の作品で、脚本は後に「ロマンティック・コメディの名手」となるノーラ・エフロンが手がけた。ユダヤ系脚本家の両親の元に生まれたエフロンは、『シルクウッド』で注目をあびた。彼女はウォーターゲート事件のきっかけを作った『ワシントンポスト』記者、カール・バーンスタインと結婚した時期があり、彼らの結婚生活は、ニコルズ監督によって映画『心みだれて』( 1986年、原題:Heartburn)となった。脚本はエフロン自身が担当し、ノーラの役は、メリル・ストリープが演じた。『シルクウッド』から3年後、再び監督、脚本家、主演女優のトリオ作品となった。

メリル・ストリープは、2016年ゴールデングローブ賞授賞式での生涯功労賞(セシル・B・デミル賞)受賞スピーチで、ドナルド・トランプを批判し「無礼は無礼を招き、暴力は暴力を招く。権力者がその地位を使って他者をいじめたら、私たちは全員負け」と発言して、ハリウッド映画人の気骨を見せた。この4年前に白血病で亡くなったノーラ・エフロンが存命ならば、どのように怒りを表現しただろうか。

1999年3月27日の新聞記事「時々刻々」では「脱原発の潮流 世界へ」と見出しされ、「スリーマイル島事故から20年」と小見出しが付いている。さらに「米国内21世紀初めに消滅も」とされ、原発廃止への展望が描かれている。この記事から17年経った2016年10月には、米国で百基目となる新たな原発が運転を開始したことが伝えられた。テネシー州ワッツバー原子力発電所二号機で、新設原発の稼働は20年ぶりだった。

運転開始翌月の大統領選挙でまさかの大統領が誕生して、「自分さえ良ければいい」風潮は続き、パリ協定からの脱退など、スリーマイル島事故のことなど、すっかりのど元を過ぎた4年間だったが、バイデン大統領はどう軌道修正してくれるだろうか。

スリーマイル島原発事故から7年後の1986 年4月26日、旧ソ連ウクライナ共和国の北辺、チェルノブイリ原発四号炉で原子力発電開発史上最悪の事故が発生した。炉心はメルトダウン後に爆発し、飛散した放射性降下物が広い地域を汚染した。15万人もの周辺住民は二度と自宅に戻ることはできず、約4000人の除染作業員が被爆したと見られ、7万人以上が被爆したとの指摘もある。

原発事故から33年経った2019年暮れ、「封印の中 眠る四号炉」と見出しされた新聞記事では、新シェルターの中で眠りについた四号炉の大きな写真が紙面半分を占めた。事故直後に急造された石棺が老朽化し、移動式では世界最大の構造物となる高さ108メートルの鋼鉄などで作られたドームで封じ込めると、今後百年間は安全を保てるらしい。

同じ2019年5月に放送されたHBOテレビドラマ『チェルノブイリ』は、事実をベースにドラマ化して、米英を中心に圧倒的な支持を得た。同年9月の第71回エミー賞授賞式で、「リミテッドシリーズ部門・作品賞」を受賞して話題を呼んだ。前述の新聞記事には、チェルノブイリ原発周辺は、多くの観光客がツアーで訪れていると紹介された。ドラマの舞台となった人口5万人の原発城下町プリピャチでは、旧ソ連の生活が残っていて、ソ連崩壊後のウクライナ観光には欠かせない場所となるのだろうか。なんと皮肉なことか・・・。

新約聖書の最後に「ヨハネの黙示録」という聖典がある。第8章「第七の封印が開かれる」第11節に「この星の名は『苦よもぎ』といい、水の三分の一が苦よもぎのように苦くなって、そのために多くの人が死んだ」とある。「苦よもぎ」はロシア語で「チェルノブイリ」と言うそうで、原発事故の予言とも噂された。

チェルノブイリ25周年直前にフクシマは起こった。3カ所の原発事故は、いずれも3月から4月に。奇妙な偶然だが、3月は女性月間であると同時に「原発を考える」月でもある。