【NO.17】ディズニー映画「白雪姫」から考える欧州童話作家たち
Posted on 4月 23, 2025
皆様、こんにちは。岩本裕子です。埼玉県にある浦和大学で教員をしております。
新年度が始まりましたね。新年度最初のYouTubeでは何をお話ししようかと考えましたが、やはり、最近観た映画から出発するのが良いかと思い、今回はディズニーの実写版『白雪姫』についてお話しします。
この映画については、すでにウェブ上でさまざまな意見やレビューが出ていますので、詳しい内容や評価はそちらに譲ることにして、今回は「お勉強的な視点」からこの作品について触れていきたいと思います。
観たのは字幕版で、夜の回でした。昼間の時間帯は主に親子連れ向けに吹き替え版が上映されているため、私は夜に、英語で語られ、歌われる白雪姫を観ました。
観ていてまず気づいたのは、白雪姫の顔立ちがどこかアジア的な雰囲気を帯びていることです。いわゆる「白人的」な彫りの深さや金髪の長い髪ではなく、黒く短い髪でした。なぜ短いのだろう?と以前から疑問に思っていたのですが、今回の実写版を観て「なるほど、だから短いのか」と納得がいきました。詳しくは伏せますが、ぜひ映画をご覧になって確かめてみてください。
一方で、いまだに解決していないのが「なぜ白雪姫は黄色いスカートをはいているのか?」ということです。私自身ずっと疑問に思っているのですが、実写版を観てもその理由は分かりませんでした。もしご存知の方がいらしたら、ぜひ教えてください。
今回は映画の内容そのものではなく、白雪姫という物語が「もともとどこから来たのか?」についてお話しします。
現在、私は現代社会学科に所属していますが、それまでは、こども学部こども学科と学校教育学科で英語を教えていました。英語が苦手な学生にも関心を持ってもらうために、ディズニー映画を使った学生による発表を授業に取り入れていた時期がありました。そこで学生たちに伝えていた話を、今回皆さまにもお話ししたいと思います。
誰もが知っている『白雪姫』ですが、これはディズニーが初めて長編アニメーション映画として制作した作品です。より正確に言えば、「ウォルト・ディズニー」が制作した初の長編アニメで、1937年12月21日に初公開されました。ちょうどクリスマスに向けた時期でした。
ウォルトがこのアニメーション制作を決意したきっかけは、2年前に訪れたパリでの体験でした。パリでは、彼の短編映画6本がまとめて上映されていて、それが1時間以上にもなる上映時間だったのですが、それでも観客は最後まで楽しんでいたのを見て「長編でも観客は飽きずに観てくれる」と確信したそうです。
ちなみに、学生たちは「白雪姫=ディズニーのオリジナル作品」と思い込んでいたのですが、実は違います。この物語は、グリム兄弟がドイツの民間伝承をもとに編纂した童話集の一つで、『子どもと家庭のメルヘン』(KHM)というシリーズに収められています。『白雪姫』は、その中の53番目の物語です。原型がまとめられたのは1812年で、ナンバリングされたのは1857年とされています。
20世紀に入ってディズニーがアニメーション化したことにより、「白雪姫=ディズニー」という印象が定着しましたが、元はグリム兄弟の作品であるということを確認するのは大切だと思います。
なぜ、このような民話がグリム兄弟の時代に求められたのか。それは、ナポレオンの支配によりドイツがフランスに屈しそうになった時代背景にあります。こうした時期に「ドイツ人としての誇り」や「ナショナリズム」を呼び起こすために、童話のような民族的・文化的な物語が重要な役割を果たしたと言われています。
童話という点では、ドイツのグリム兄弟に加えて、古代ギリシャの奴隷だったイソップも重要な存在です。『ウサギとカメ』や『アリとキリギリス』などは、イソップの寓話がもとになっています。ディズニー映画『リトル・マーメイド』の原作は、デンマークのアンデルセンによる『人魚姫』です。加えて、フランスのペローもいますね。『長靴をはいた猫』や『眠れる森の美女』などの原作者です。
他にも『ガリバー旅行記』や『ピノキオ』、『アラビアンナイト』といった古典的な物語も、ディズニーによってアニメ化されています。こうして見ると、世界中の子どもたちのために語られてきた物語が、ディズニー映画を通じて広く知られるようになったというわけですね。
かつて、こうした物語にはナショナリズム的な目的が含まれていたという側面も見逃せません。現在では、そうした伝統的な物語に触れる子どもたちの多くが、ディズニー映画を通してしか物語を知らない、という状況になっているのかもしれません。
ぜひ、この音声を聞いてくださった方は、ご自身のお子さんや周囲のお子さんたちに、「元々の物語」についてもお話しいただきたいと思います。
今回の実写版『白雪姫』は、現代アメリカの社会的背景、たとえばSDGsやジェンダー/人種の多様性を意識した作品になっていたのが印象的でした。王子様が「突然現れて死んでいる姫に恋をする」という従来の構造ではなく、新たな関係性が描かれていた点も、現代の価値観を反映していると思いました。
2025年度最初にこの空間で取り上げた映画は、1937年に公開されたディズニー初の長編アニメ『白雪姫』と、さらに公開したばかりの実写版でした。
以上で、岩本裕子研究室映画コラム on YouTube第17回を終了いたします。次回もまた、お耳にかかれますことを楽しみにしております。
本日もお聴きくださり、ありがとうございました。ごめんくださいませ。