映画コラム No.006映画『シビル・ウォー』とアメリカ大統領選雑感 #civilwar #veteransday #presidentialelection #アメリカ大統領選挙
Posted on 11月 12, 2024
1918年11月11日11時をもって、第一次世界大戦を「一時中断」とした「休戦記念日」Armistice Dayと呼ばれています。その日がアメリカでは連邦祝日としてVeterans’ Day、「退役軍人の日」とされています。
11月にはこの祝日があり、先週の「第1月曜日の次の火曜日」には大統領選挙も行われましたね。皆さんも関心を持ってご覧になったでしょうか。私としては、立ち直れないままこの1週間を過ごしました。この件は、後ほど少しお話しします。
今日は、YouTube第4回で『シビル・ウォー』という映画をなかなか見に行けないと話したのですが、大統領選挙の結果を受けて、重い気持ちを引きずりながら映画館に行ったので、その感想から始めます。この映画の原題「Civil War」は、英語で「内戦」という意味ですが、日本で公開されるタイトルは『シビル・ウォー アメリカ最後の日』というカタカナタイトルになっています。
ちなみに、「全米で2週連続ナンバーワンの大ヒット」とチラシに書かれていますが、どの点で大ヒットしているのかよくわかりません…。また「それは今日起こるかもしれない」とも書かれていますが、なんだか絶望的な映画でした。
アメリカ史研究者の信頼できる仲間2人から「あの映画はひどい」「絶望的で何の夢もない」という情報ももらっていて、私としては観に行くつもりは全くなかったのですが、大統領選挙の結果を受けて、「やはり一応観てから発言しなければ」と思ったので、行ってきました。物語は、テキサスとカリフォルニアの連合軍「ウェスタン・フォーシズ」というグループがアメリカ合衆国に立ち向かうというものでした。今、手元には、映画を見ながら、せっせと書いたメモもありますが…。
話が少し逸れますが、皆さんは1マイルが何キロメートルかご存知ですか?英語のセリフでは「マイル」と発音しているのに、字幕で正しいキロ数が表示されていないといつも気になります。さて、この映画、最後の結末については言わない方がいいのでしょうが、なんとも衝撃的な出来事で終わります。これから観に行く方のために、ラストシーンがどうなっているかはお話ししないことにします。
この『シビル・ウォー』ですが、いわゆる「ロードムービー」となっていました。主人公たちはニューヨークからワシントンへ向かうのですが、普通なら南下することで、すぐに着きそうな距離も危険に満ちていて、ペンシルベニア州を通ってヴァジニア州シャーロッツビルへと進む方法がとられます。
最終的な目的地はワシントンのホワイトハウスです。南下をやめて、西回りで行くことを、ニューヨークタイムズの記者だった高齢ジャーナリストに言われ、1台の車に4人で乗って、旅をすることになります。このような車での旅を「ロードムービー」と呼ぶそうです。私は詳しく知りませんでしたが、20世紀に、映画『パリ、テキサス』が典型的なロードムービーだと、私の友人が映画批評で書いていました。なるほど、ロードムービーとはこういうものなのだと知りました。「Civil War」はまだ公開されていますが、いつ公開終了となるかわかりません。皆さんもぜひ観に行って判断してみてください。
それでは、今回の大統領選挙について私の気持ちを少しお伝えします。これは政治的な判断や歴史的な見解ではありません。アメリカ史研究者として、今回の選挙結果がアメリカ合衆国だけでなく、世界にとっても憂うべき結果となったことに、言葉が出ないほどの衝撃を受けています。
正直に話しますと、今回の2人の候補者にはどちらも当選してほしくありませんでした。トランプはもちろん、カマラ・ハリスも最適とは言えず、悩んでいたのです。第3の候補者がいない中で、2人とも当選してほしくないと思っていました。大統領選挙直前週の講義では、全米の選挙人の数を示した50州の地図を配り、このとても複雑な選挙システムについて解説しました。
結果が出た途端に、トランプから「パリ協定」脱退などのニュースも早速報じられていて、地球は危機にさらされています。環境問題の解決に皆で取り組んでいる中で、奄美の辺りで線状降水帯が発生するような状況が現実です。なぜこのようなことが起こるのかといえば、地球が危機に瀕しているからです。これをさらに悪化させるような政策が採られることに不安を覚えます。トランプ大統領就任式が行われる2025年1月20日までに、さらなる何かが起こるかもしれません。
今回の選挙では、民主党のジョー・バイデンが途中で辞退するという判断がもっと早ければ、異なる展開もあり得たのではないかと思います。ただ、副大統領である、カマラ・ハリスが出馬するのは当然の選択でしたが、彼女は人種的には、黒人女性ではあるものの、アフリカ系アメリカ人(奴隷の子孫)ではありません。
アメリカ社会においては、奴隷の子孫であることは重要な要素となります。例えば、オプラ・ウィンフレイやビヨンセ・ノールズ、さらにミシェル・ラヴォーン・ロビンソン・オバマが、選挙戦の最終盤で、カマラ・ハリスを応援したことで、私も彼女の当選は万全だと思いました。けれども、結果はそうなりませんでした。オール・スター・キャストでも勝てなかったのはなぜかというと、個人的に「こっそり」思っているのは、黒人社会が分裂したのではないかと思うのです。
黒人票では、黒人女性の多くがカマラ・ハリスに投票したはずですが、もしかすると男性票が動いたのではないかと思うのです。黒人社会は相変わらず分裂したままなのかもしれません。皆さん、アリス・ウォーカーという作家の小説『カラーパープル』(https://www.urawa.ac.jp/staff/iwamoto/color_purple_2023/)をご存知ですか?私のホームページにある映画コラムでは、この作品について二度にわたって論じましたが、ウォーカーが訴えた黒人社会内部の分裂は、今回の2024年大統領選挙でも現れたのかもしれません。もしそうであるとするならば、『カラーパープル』が出版された1982年から、変わっていないということを悲しく思います。
ところで、カマラ・ハリスは敗北を認め、4年前のトランプのような、大変な事件を引き起こさないで、敗北宣言を行いましたが、このニュースをご覧になった方はいますか?この会場はおそらく、彼女が卒業したハワード大学のキャンパスだったようです。ハワード大学は、南北戦争終了直後に、首都ワシントン北部に設立された黒人名門大学で、カマラ・ハリスもその卒業生です。
私自身の研究領域であるアメリカ黒人女性史研究に必要な史料を所蔵する、このハワード大学文書館、モーランド&スピンガーンセンターに、1991年以来、通い続けた、懐かしいキャンパスです。カリフォルニアのオークランド出身のカマラ・ハリスが、大学進学時点でハワード大学を選択したことは、評価していました。ニュースでハワード大学のキャンパスが映され、支援者が勝利を期待して待っていたのを見た時は、本当に嬉しかったです。首都ワシントンD.C.の北部にあるので、ワシントンに行かれる機会のある方々には、ぜひお立ち寄りください。
皆さんも今、目の前で起こっている世界の状況について考えを深めてみてください。今日は、私の話を聞いてくださって、ありがとうございました。またお耳にかかります。それでは、ごめん下さいませ。