岩本裕子研究室

PROFESSOR HIROKO IWAMOTO'S OFFICE

【外国史連載】第3回 クリスマスとイースターの意味を知って祝っている?キリスト教の聖典『新約聖書』を映画で観る

Posted on 3月 10, 2019

なぜか、この日は家族でケーキを食べたり、子どもたちがサンタクロースからのプレゼントを待ちわびる。キリスト教国ではない日本では摩訶不思議な現象だが、昨今の「ハロウィーン」のどんちゃん騒ぎよりはましかもしれない。

神の子だとされるイエス・キリストの誕生が描かれた映画として、映画The Nativity Story(邦題『マリア』2006年)がある。こども学部選択科目「アメリカの生活と文化」では、年内最終講義のテーマは、クリスマスにしているが、その説明をするときに必ず見せる絵がある。レオナルド・ダヴィンチの名画「受胎告知」である。聖母マリア(Virgin Mary)に、神の言葉を伝える大天使ガブリエルの役目を説明して、新約聖書を読み上げている。

受胎告知のくだりは、元々旧約聖書中の「イザヤ書」(7:14)で預言されていた。第2回で説明したように、兄弟宗教三者共通の聖典である旧約聖書に、すでに神の子の誕生が告知されているのだが、新約聖書には2カ所で大天使ガブリエルによる神の言葉伝達場面がある。「マタイによる福音書」第1章 18イエス・キリスト誕生のくだり、さらに「ルカによる福音書」第1章でも説明されている。ところが「マルコによる福音書」には受胎告知の説明がないことも興味深い。

日本人の12月行事には欠かせなくなった「クリスマス」について、ハリウッドが描いたクリスマス定番映画3本を紹介しておきたい。これらを見ることで、キリスト教国アメリカ合衆国の人々のクリスマスの過ごし方を目撃して、クリスマスの意味を考えながら12月を過ごして頂きたい。

「アメリカの生活と文化」の教科書としている拙著『スクリーンで旅するアメリカ』の「ニューヨークでクリスマスを!」の項目で紹介している。以下の3本で、1と2は20世紀末にリメイクされました。

  1. The Preacher’s Wife(『気まぐれ天使』1947年『天使の贈りもの』1996年) 
  2. The Miracle on the 34th Street(『34丁目の奇蹟』1946年『34丁目の奇跡』1994年) 
  3. It’s a wonderful life!(『素晴らしき哉、人生!』1946年)

「アメリカの生活と文化」では、黒人教会でのクリスマス礼拝の場面を毎年見せていて、今は亡きホイットニー・ヒューストン(20世紀の大人気映画『ボディーガード』の主人公なのに、21世紀の大学生は彼女のことを全く知らない…)の♪Joy to the World(諸人こぞりて)を一緒に楽しんでいる。渡米するたびに黒人教会の日曜礼拝に参加している筆者とは違い、たぶん生涯目撃する機会もない人たちに、ハリウッド映画を通して、黒人教会のクリスマス礼拝を体験して頂きたい。Merry Christmas!

実はキリスト教徒にとって、クリスマス以上に重要な祝祭行事は「イースター、復活祭」だろう。なぜならば、もし磔刑になったまま復活しなかったとしたら、それは「神の子」と言えるだろうか。イエスは生前に無数の奇跡を人々に見せてきたが、「神の子」であることを人々に徹底させ、さらに磔刑直前に「イエスのことを知らない」と言って離れていった弟子たちが、本格的に伝道する契機はその「復活」にあったからである。

神の子イエス・キリストを描く映画では、誕生よりむしろ復活が題材となることが多い。1945年沖縄戦で実在した米軍衛生兵(Seventh Day Adventist信者)を描いた映画Hacksaw Ridge(邦題『ハクソーリッジ』2016年)を監督したメル・ギブソンは、2004年にイエスが処刑されるまでの12時間を描いた映画The Passion of the Christ(邦題『パッション』)を監督した。超伝統主義カトリック教徒と言われるギブソンが、イエスの受難と磔刑を描いたこの映画は、ユダヤ人団体から強烈な抗議がなされるなど物議を醸した。

さらにTV映画ながらSon of God (邦題『サン・オブ・ゴッド』2014年)が注目された。イエス誕生から復活までの物語を、有名な奇跡のエピソードの数々とともに聖書に忠実に再現したTVミニシリーズThe Bible を再編集した映画である。

こども学部前期講義「歴史入門」だけでなく、英語科目でも年度初め4月最初の授業で学生たちにこのように問いかけている。「イースターって何?」イースターという言葉を知らない学生は少なく、その意味も分からないまま、「卵」や「うさぎ」を連想している。彼らにまず説明するのは、前述したように「イエス・キリストの復活」の意味である。その「復活」の象徴として、卵が「イースター・エッグ」となり、多産動物であるうさぎが「イースター・バニー」とされていることを説明する。

実際12月25日が誕生の日ではないにもかかわらず、クリスマスとして祝われていること、第1回で説明したように、ロシアなど東方教会を信仰する国では1月7日がクリスマスだとも伝える。そのあとで西方教会によるイースターの日程の決め方を説明している。学生たちは耳にしたことを懸命にノートするのである。

学生たちがノートするのは「春分の日のあと、最初の満月の次の日曜日」である。太陽ではなく月によって日程を決めていく「復活祭」は、その年によって動く。3月21日(春分の日)直後が最速、最も遅いと4月下旬になることもある。ちなみに今年、2019年の西方教会のイースターは、グレゴリオ暦4月21日(日)となっている。Happy Easter!