【#07】「第89回アカデミー賞授賞式分析3:『フェンス』」
Posted on 3月 18, 2017
続き「その3」を始めましょう。
「その3」では、私の研究専門領域であるアメリカ黒人女性史の立場から、またアメリカ黒人女優の視点から、第89回アカデミー賞授賞式を分析していきます。
「その2」でお伝えしたように、年明け1月8日に開催されたゴールデングローブ賞授賞式で、メリル・ストリープはセシル・B・デミル生涯功績賞を受賞しました。そのメリル・ストリープを紹介するプレゼンターの役目をした黒人女優、ヴィオラ・デイヴィスの話から始めます。
メリルとヴィオラは、カトリック教会の神父による児童虐待をテーマとした映画『ダウト:あるカトリック学校で』で共演経験があり、この作品でメリルは主演女優、ヴィオラは助演女優と、それぞれアカデミー賞候補となっていました。その撮影時のエピソードなども交えながら、ヴィオラはメリルを紹介していました。
今年、ヴィオラ・デイヴィスは、『フェンス』という映画で、ゴールデングローブ賞とアカデミー賞、両方で最優秀助演女優賞を受賞しました。ゴールデングローブ賞授賞式終了後の記者会見インタビューで、次のような発言をしました。ネット情報のおかげで、ここにお伝えできます。「ネットも使いよう」をまた実践します。ネットでは、この発言をする目の覚めるような黄色のドレスを着たヴィオラの声も聴くことができますよ。
「おかしいと思われるかもしれませんが、ここではトランプのことを話題にはしません。私が話そうとしていることは、トランプどうこうよりも、もっと大切なことだからです。アメリカ人であるとはどういうことか、アメリカはどんな国か、アメリカンドリームを追いかけることの本当の意味は何なのか、を守っていくのは、私たちみんなの責任だと信じます。アメリカ合衆国自体は肯定的な国なのに、私たち国民が追いつけなかったのです。私たちの信念を反映していない人が大統領の座に就くなんておかしいと思いませんか? 私たちはどうしてしまったのでしょう?この質問に対するみなさんの答えが、私の思いの全てです」
この発言は1月8日ですから、トランプはまだ「次期大統領」でした。1月20日に就任して2か月近く経ちました。ハリウッド映画人の絶望感は、想像を超えるものがありますが、絶望ばかりはしていられません。トランプを凝視し、メリル・ストリープの言葉通り、「権力を監視し、責任を果たさせるよう」報道機関は活動して、ハリウッド映画人はその報道機関を支えていくものと信じ、期待します。
ヴィオラが最優秀助演女優賞を受賞することになった映画『フェンス』について説明しましょう。アメリカでの公開が2016年暮れでしたので、日本公開までにはまだ時間がありそうですし、邦題がどうなるかもわかりません。7年前の2010年に出版した拙著『語り継ぐ黒人女性:ミシェル・オバマからビヨンセまで』で、次のように紹介したので、その部分をそのまま書き出します。読んでみてください。