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【映画コラム・#10】『沈黙-サイレンス-』:「主よ、あなたはなぜ黙ったままなのですか」

図書・情報センター長、こども学部教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラムも10回目になりました。前回の『沈黙』紹介では、不十分なので、再度『沈黙』についてお話ししてから、夏休みを迎えたいと思います。この連載によって図書館利用学生が増えることに期待しつつ!

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今日で7月も終わり、明日から8月というのに、本学は今日から試験週です。8月1週目が4月から数えて16週目となり、今週で試験が無事終われば、大学生はやっと夏休みです。すべての試験が終わった翌日、8月5日はAO第一期入試となります。受験生の皆さんは、頑張ってください!

私からは、夏休み前の「宿題」を提出します。年明けに公開された『沈黙』について、少しずつしかお話しできず、前回第9回でも、『ハクソーリッジ』に紙幅を取られ、説明不十分となりました。前回、宗教に関して日本人が、無関心、無頓着であるばかりか、偏見すら持っていて、警戒心を持っていることを書きましたが、コラムを読んでくれた多くの学生たちがそれを認めるような感想をくれました。

高校の世界史では、暗記のために勉強したはずの「キリスト教」について、ここで復習することから始めましょう。今日試験を予定している「歴史入門」では、大きなテーマでもあります。後期開講の「アメリカの生活と文化」での年末最終講義のテーマ、クリスマスにつながります。

宗教に偏見を持っているはずの日本人が、なぜ「クリスマス」で大騒ぎするのか、毎年不思議に思ってきました。キリスト教徒にとってクリスマス以上に大切な「イースター」に関しても、きちんとした知識もないままに、お祝い気分でいる日本の商戦を目撃したのは4月上旬でした。今年のイースターは、4月16日日曜日でした。

金曜日に磔刑になったイエス・キリストが、二日後の日曜日に復活することを祝う日で、ユダヤ人である聖母マリアから「神の子」として生まれたことを祝うクリスマスよりも、重要な意味があります。人間であれば「復活」することはありえず、「神の子」だからこそ生き返り、弟子たちに復活したことを伝えて、そこから弟子たちによるキリスト教伝道が始まるのですから。復活しなければ、現在のキリスト教は存在しないはずです。

その復活祭(イースター)は、「春分の日のあとの満月の次にくる最初の日曜日」と決められていて、今年はずいぶん遅い日曜日となりました。満月になるまでに時間がかかったようですね。復活することから、多産な動物である「ウサギ」が象徴的に用いられて「イースター・バニー」と呼ばれたり、まさに生まれるための「卵」によって、「イースターエッグ」と呼ぶのです。

復活祭の1週間前、今年は4月9日日曜日が、Palm Sundayでした。イエス・キリストがエルサレムに入った時に、人々がシュロ(Palm)で、路上を掃き清めて迎えたという逸話(エピソード)にちなんでいます。聖週間(受難週)の始まりです。受難、つまりこの週の金曜日に、イエス・キリストはゴルゴダの丘で磔刑になったのです。3月1日、灰の水曜日から始まったレント(四旬節、受難節)最後の週の始まりが、Palm Sundayです。

キリスト教にとって、というより、すべての宗教にとって「暦」はとても重要な要素です。太陽暦に基づく西洋の教会暦を、太陰暦であった16世紀の日本のキリスト教徒たちは、太陽暦に数え直して、キリスト教の祝い事をする必要がありました。前回お話ししたように、1549年8月15日(聖母マリア昇天祭)、フランシスコ・ザビエルが鹿児島に入ってから今年で468年目になりますが、長崎では、17世紀初めに江戸幕府によって聖職者が追放されて、一人の司祭も残らないままとなりました。ところが、「潜伏キリシタン」と呼ばれることになる地元の人々は、密かに信仰と祈りを守ったのです。この時代が舞台となったのが、映画『沈黙』でした。

約250年後に宣教師が日本に戻り、長崎では数万人のキリスト信者が公の場に出て、教会は再び栄えることになりました。「日本のキリスト教共同体は、隠れていたにもかかわらず、強い共同体的精神を保った」ことを、現在のバチカンのフランシス教皇(Pope Francis)は、讃えたのです。(2016年3月)映画でも表現されていましたが、仏教徒を装いながら、キリスト教徒であり続けたのでした。その精神的強さが、マーティン・スコセッシ監督には「脅威」でもあり、畏敬の念を持ち続けて映画化を切望したのだと思います。

(C) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

前回確認したように映画『沈黙』では、1640年に日本で布教活動をしていたイエズス会宣教師フェレイラが、激しいキリシタン弾圧に屈して「棄教」(信仰を捨てること)したことを知った、フェレイラ神父の弟子、セバスチャン・ロドリゴ神父がその真偽を確かめるために日本にやってくる場面から始まりました。

(C) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

そのロドリゴ神父も、結局、自分を慕う信者たちがひどい弾圧を受けることを凝視できずに、「棄教」して「岡田三右衛門」として、恩師同様に日本人としての生き方を選んだのでした。ただ、死後棺桶に入れられたロドリゴの手には、長崎の信者からかつてもらった手作りの十字架を持たされ、彼が決して棄教していなかったことが知らされるのです。観客は、その場面で安堵すると同時に、キリスト教信仰の強さに圧倒されると思います。

長崎市にある遠藤周作文学館には、「出津文化村」の一角で、海をみおろす場所に文学碑が建立されています。その石碑には、遠藤周作の言葉「人間がこんなに哀しいのに、主よ、海があまりにも碧いのです」が刻まれています。映画で最も圧巻だったのは、水磔刑の場面でしょう。「主よ、あなたはなぜ黙ったままなのですか」と問わずにはいられない場面で、長崎の潜伏キリシタンの人々の、心の強さに絶句するしかないのでした。

(C) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.

このコラムを読んで下さりながらも、強い信仰心を持たない方の場合も、欧米文化を知るうえでキリスト教に関する知識は必要かもしれない、と思い始めてくださるとしたら、それは大変光栄なことです。そうした方々のために、最後に二つ、『沈黙』関連でキリスト教に関する「へえ~」(AHA)をお届けして、夏休み前の「宿題」を閉じたいと思います。

1.フランシスコ・ザビエルとイエズス会

『沈黙』の話をした時、学生たちの反応でよく知る宣教師として、ザビエルの名前が挙がりました。「イエズス(イエスのこと)会」の名前も、覚えている学生が多くいました。ザビエルのファーストネームは、フランシスコ(2番参照)です。

1517年(今年は500周年!)、ドイツ人神父マルチン・ルターは、ローマ教会に抗議して95ヶ条の論題を出し、これが宗教改革の始まりとされました。この宗教改革によって、プロテスタントが広まっていくのを阻止するために、イエズス会は結成されました。イエズス会員はカトリック教徒として「教皇の精鋭部隊」とも呼ばれ、カトリック修道士としてローマ教皇を守り、キリスト教の伝道のために全世界に繰り出して行ったのです。

そもそもの出発は、1534年8月15日(聖母マリア昇天祭)にパリのモンマルトルの丘(現在のサクレ・クール聖堂)で「誓い」を立てるために、パリ大学の学友7人が集まったことでした。その一人がザビエルで、彼が鹿児島に入ったのは、この「誓い」から丁度15年目の同じ日、1549年8月15日でした。

2番で紹介するフランシス教皇は、イエズス会の出身で、イエズス会から教皇が出たのは、彼が最初だそうです。

2.フランシス教皇とアッシジのフランチェスコ

長崎の「潜伏キリシタン」を高く評価したのは、カトリックの総本山、バチカン市国の長である教皇だとお話ししました。2013年に第266代教皇となったのは、ブエノスアイレス大司教のホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿でした。西半球、南米から初めて選ばれた教皇です。中南米は現在、欧州以上にカトリック教徒の多い地域ですから、当然の選択だったかもしれません。彼が教皇名に選んだのは、アッシジのフランチェスコの名をとって「フランシス(コ)」でした。

アッシジのフランチェスコとは、中世(13世紀)イタリアの聖人でもっとも有名と言ってもいい聖フランチェスコのことで、フランシスコ会(フランチェスコ会)の創設者として知られるカトリック修道士です。「清貧の理想」をもって伝道し、「人間にとって本当に必要なものは愛と平和だけであり、それ以外のものはすべて不要」と主張した聖人でした。2013年に新しい教皇の名前が決まった時、私はまずこの聖人を思い出し、世界を平和にする活動に期待したいと思ったものです。

蛇足をさらに二つ。教皇は終身の役職ですが、前任者ベネディクト16世は、719年ぶりに自らの意思で「生前退位」をして、名誉教皇となりました。日本でも天皇陛下の生前退位が近づきますね。平成時代の終わりも近いです。

ちなみに、初代教皇は誰かわかりますか?バチカン市国にあるサン・ピエトロ大聖堂は、イエスの弟子の一人ペトロ(ピエトロ)が、ローマ皇帝だった暴君ネロによって処刑されることになり、十字架ではイエスに申し訳ないと、逆さ十字架にかけられた場所に立っています。このペトロが初代教皇とされることが多く、彼はイエスから「天国の門の鍵」を託され、代々の教皇に受け継がれているのです。

次回、第11回目の映画紹介のテーマを何にするのか、まだ決めていません。毎年8月に行くことを決めてはや5年目、今年もニューヨークで仕事(2013年9月HP拙稿)をしてきます。その前にワシントンD.C.に入り、新装なった「国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館」を、友人ジャネット(ハワード大学文書館の元司書)の案内で見学する予定です。次回は、旅便りのような内容にしようと思います。夏休みが終わる前にはアップできるように頑張ります!みなさんも、充実した夏をお過ごし下さい。

  1. 『沈黙-サイレンス-』
  2. ブルーレイ&DVD 8月2日(水)発売
  3. ブルーレイ(通常版) 価格:4,743円(+税)
  4. DVD(通常版) 価格:3,800円(+税)
  5. (C) 2016 FM Films, LLC. All Rights Reserved.
  6. 発売元:KADOKAWA/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント

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