【映画コラム・#04】「年始に考える:ポピュリズムと向き合うためにできること」映画『パール・ハーバー』

こども学部教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラム4回目です。今回は、75年前の1941年12月7日(ハワイ時間)に行われた、真珠湾攻撃という史実をふまえた映画『パール・ハーバー』を紹介します。

真珠湾攻撃直後に作られたポスターを絵葉書にしたもの
真珠湾攻撃直後に作られたポスターをもとにした絵葉書。合言葉「12月7日を忘れない」とともに切り裂かれた星条旗が半旗に…

 新しい年(丁酉年)を迎えました。みなさまにはどのような冬休みをお過ごしになったでしょうか。今年も、映画紹介コラムを続けてまいりますので、よろしくおつきあい下さいますよう、お願いします。

 先月、映画『リンカーン』紹介の最後でお約束したように、年明け最初の映画紹介は『パール・ハーバー』とします。こども学部の後期科目「アメリカの生活と文化」では、12月7日直前の講義で毎年講義テーマとして、映画の一部を教材として見せてきています。

 2016年の暮れも押し迫った12月28日(日本時間:ハワイ時間27日)に、安倍首相がハワイ、オアフ島のパール・ハーバーを訪問しました。ハワイ州出身のオバマ大統領が休暇でハワイ滞在中ということで、日米両首脳による真珠湾訪問が行われ、世界中の注目を集めたニュースとなりました。

 日本軍の攻撃によって、約900人の遺体を残して沈んだままの戦艦アリゾナ号(米海軍の軍艦の名前は、海のない州の名前をつけたものが多くあります)の上に、追悼施設が作られて、真珠湾攻撃による戦死者の全ての名前が刻み込まれています。アリゾナ記念館(Arizona Memorial)と名付けられ、1962年に開館した慰霊施設です。


アリゾナ記念館に置かれている施設紹介のチラシは、英語のものだけではなく日本語版も含め何カ国語も準備されています。

 現在、アリゾナ記念館のそばには、戦艦ミズーリ号(ミズーリも海のない州)が永久停泊していて、ミズーリ記念館となっています。この戦艦は建造されて2度目の航海として、1945年9月2日に東京湾へやって来ました。日本国降伏文書調印式を行うためでした。そのミズーリ号も50年後に現役引退して(映画『沈黙の戦艦』の冒頭で真珠湾攻撃50周年式典が紹介されています)、サンフランシスコ湾に永久停泊した後に、真珠湾に移動して記念館となりました。

「うっとり」から「しっかり」に


映画『パールハーバー』プログラムの下半分

 史実の紹介が長くなりましたが、こうした史実をふまえて作られた映画『パール・ハーバー』を見ていきましょう。
 この映画が公開された2001年夏、日本でも大ヒットしました。当時はまだこども学部は創設されていなくて、浦和大学短期大学部英語コミュニケーション科の教員だった私は、後期科目「アメリカ事情」という科目で、12月7日直前講義で真珠湾攻撃をテーマとした講義を重ねていました。

 劇場公開された数ヶ月後で、映像を使うことはできませんでしたが、受講生の多くが『パール・ハーバー』を劇場で観たことを、目をハート型にして語っていました。女子大生たちのうっとりした目が忘れられません。当時の大学生にとっては、この映画は恋愛映画に留まっていたのです。ただ、講義を聞き終わり史実を知った彼女たちの目は、「うっとり」から「しっかり」に変わり、史実を見つめなければならないことを自覚して教室を後にしていました。

 この映画公開以前には、映画『トラ・トラ・トラ』の場面を私が口頭で話して、「日本軍の爆撃機が攻撃され、片翼を失ったらどうするか?」と問いかけて、受講生の反応を見ていました。今はもうこのような話をする時間の余裕がないほどに、学生たちが史実を知らないので、歴史事実の説明に講義時間の大半を使うようになってしまいました。

 映画『パール・ハーバー』は、史実だけでは多くの観客の興味を引きつけられないので、恋愛映画というフィクションを盛り込んで、主人公の男女たちの友情や愛情を話の軸としています。
 
 日本人として見る場合、問題を多く含んでいる映画ではあります。真珠湾攻撃のために空母から飛び立つ爆撃機の様子、攻撃前の機上の様子で、講義では必ず一時停止して「こんなことを日本兵は決してしない、ハリウッド映画的な解釈」と説明するのが、戦艦オクラホマ号(オクラホマも海のない州)攻撃を命じられた爆撃機の操縦桿のそばには、戦艦オクラホマ号の写真と並んで若い女性の写真が貼り付けられているのです。たとえ妻、婚約者だったとしても、当時の日本男児がすることはない、と私は思います。恋愛の要素がないと観客の興味をそそらないとの判断かもしれません。

なぜ神は「彼を」車椅子に?

 フィクション部分(恋愛映画)はさておき、史実に基づき実在の人物の描かれ方を中心に見ていきたいと思います。

 1941年ハワイ時間12月7日早朝、この日は日曜日で、上官たちはゴルフに興じたり、若い水兵たちは朝寝坊をしていた時間帯でした。山本五十六司令官(日本人俳優マコさんが演じています)の指揮の下、日本軍の真珠湾攻撃が実行され、宣戦布告がワシントン経由だったため、ハワイの軍港、真珠湾に伝えられたのは攻撃も終わった後となりました。

 突然の攻撃に対して、いわゆる「寝耳に水」の状態の合衆国海軍は応戦するのに時間を要したのでした。日本軍の「卑劣な」行為、「だまし討ち」として、翌日8日にはフランクリン・ローズベルト大統領は連邦議会に対して参戦を提案し、白人女性議員によるたった一票の反対票で全会一致とはならなかったものの、参戦が決定したのでした。この時以来、アメリカ人にとっては ”Remember Pearl Harbor!” が合い言葉となったのです。

 この写真は”The Day of Infamy”と題された小冊子の中に紹介されたもので、FDRが参戦書類に署名をしています。20年以上前にワシントンD.C.のスミソニアン博物館で購入したこの冊子は、講義の大切な教材のひとつです。

 前述したように真珠湾攻撃時点での大統領だったフランクリン・ローズベルトの描かれ方を見ていきます。シオドア・ローズベルト大統領の甥で、従妹エリノアと結婚したFDRは、39歳で突然ポリオにかかり下半身不随となり、一時は政治家として絶望視されましたが、賢夫人エリノアの支えで政界復帰を果たし、大統領職まで登り詰めたのでした。

 困難を克服したFDRの第一回就任演説の中の「我々が恐れなければならない唯一のことそれは恐れそのものである」(The only thing we have to fear is fear itself.)の言葉を信じて、アメリカ国民は大恐慌のどん底から立ち上がる勇気をもらったのでした。

 大恐慌の次に大きな転換点となったのが1941年12月7日(アメリカ時間)でした。映画ではFDRが参戦を決め、翌8日に議会に対して参戦を提案、議会から承認される場面では「12月7日は恥辱の日(The Day of Infamy)である」という有名な演説部分が引用されていました。今回の安倍首相訪問関連の日本での報道でも、FDRのこの演説実写場面が多くの番組で使われていました。


真珠湾攻撃によって参戦したことを知らせる攻撃翌日のHonolulu Star-Bulletin

 この場面の後、閣僚たちと作戦会議を行う場面も描かれました。このときの彼の発言からは多くを知ることができるので、ここに字幕のまま引用してみます。「足が悪くなる前の私を知るまい。私は頑強で誇り高く傲慢だった。今の私は絶えず自問している。『なぜ神は私を車椅子に?』今の君らの目と同様米国民の目に敗北の色を見るとき私は思う。『神はこのために私に試練を与えたのだ』と。我々はくじけぬと思い起こすために」と。

 閣僚たちに向かってこう言い放った大統領に対し、一人の閣僚が「実行不可能です」と答えるのですが、FDRは決心したかのように車椅子から立ち上がろうとしました。そばに座っていたエリノア夫人や側近、さらに黒人の使用人が駆け寄ろうとしますが、すべてを振り払って、必死の努力で立ち上がったFDRは「この私に『不可能』などと言うな」と対日戦への強い意志を表明したのでした。

ドリス・ミラーという黒人水兵

 最後にもう一人、実在の人物を紹介します。
 2016年12月27日午前に、アリゾナ記念館での献花を終えた日米両国の首脳によって演説が行われましたが、ここで紹介したいのは、オバマ大統領の演説で言及された黒人兵(African American Messman)です。オバマ大統領の演説では、何人もの実在の人物の実名が紹介されていましたが、この黒人兵に関しては実名を出していませんでした。ドリス・ミラーという海軍に所属する三等水兵(給仕兵)がいたのです。

 映画では、キューバ・グッディング・ジュニアが演じていました。映画『ザ・エージェント』(1996)でアカデミー最優秀助演男優賞を受賞した俳優です。大戦中の黒人兵士は、武器を持つことを許されず、ミラーのような給仕や雑役を担当する非戦闘員でした。日本軍による爆撃を受けて負傷した白人兵に代わって、対空機銃座に座り日本軍に反撃する様子が、映画では描かれていました。ミラー本人は、この武器を持つという行為によって処罰されるのではないかと心配したと伝えられています。ところが実際には、この行為が高く評価されて、ドリス・ミラーはアメリカ黒人として最初の海軍十字章(殊勲章)を受賞したのでした。

 後日談ですが、ミラーは2年後の1943年11月に、南太平洋のマキンの戦いで、日本軍の潜水艦の攻撃を受けて、戦死しました。黒人兵ミラーの活躍は、この後のアメリカ軍隊における黒人兵に大きな励みとなったことは間違いありません。祖国アメリカに戻ると待っている人種差別を自覚はしていても、命をかけた戦地においては、ひととき人種を超えた戦いをすることは、黒人兵にとっては気持ちが解放される場ともなっていたのです。

「ポピュリズム」と向き合うためにできること

 『パール・ハーバー』は3時間余りに及ぶ大作で、真珠湾攻撃の場面だけでも30分以上使っています。こども学部の「アメリカの生活と文化」では、攻撃場面を13分程度に編集して、さらに前述したFDRの登場部分を見せるようにしています。ただ流すだけでは十分に理解できない学生たちのために、何カ所も一時停止させて、説明を加えることも忘れません。講義終了前には「興味を持った人たちは、全篇を見て下さい!」と話して、冬休み前提出レポート課題映画の一つに加えてもいます。

 安倍首相による訪問で、日米両首脳が真珠湾攻撃に関して、それぞれにメッセージを世界へ発信しました。真珠湾に眠る戦死者の霊を慰めるという行為と、戦争を繰り返さないというメッセージ・・・。たった今も、世界中でシリアや南スーダンで内戦などの争いが繰り返されて、多くの子どもたちや女性たちが戦火の下を逃げ回っています。難民を受け入れようとしない、「ポピュリズム」一言で片付けられそうな「新政権」が、アメリカ合衆国をはじめとする世界各地で誕生しようとする2017年の始まりです。

 大学生として、あなたには何ができるでしょうか?こんな世界のことをしっかり学んで、今の自分に何ができるのかを考えてほしいと思うのです。そのための一助として、映画『パール・ハーバー』を観ることは、きっとあなたに力を与えてくれるはずです。新しい年を迎えて、大学生のあなたが、自分のことだけでなく世界のことも、世界中の子どもたちのことも考えられるようになってくれることを、年始に願っています。

 次回は、何か楽しくなるような映画を選びたいのですが、たぶんみなさんにはまた難しいと思うような映画になる予感がしています。近日公開予定作で、私は今月末には、映画館で『沈黙 サイレンス』を観る予定ですので。遠藤周作の同名原作を、カトリック教徒のマーティン・スコセッシ監督が28年間の時を経て映画化した作品です。

 今年もみなさんが、考えながら成長する年となりますように!


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