【第5回読書感想文コンクール】大学部門 最優秀賞『シラノ・ド・ベルジュラック』を読んで

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2015年10月29日
『シラノ・ド・ベルジュラック』を読んで
総合福祉学部・総合福祉学科(4年) 関 幸一
  • この物語の主人公は、軍人であり、詩人であり、理学者であり、哲学者という類まれな才能を持つ、シラノ・ド・ベルジュラックという人物です。ですが、彼は誰よりも醜悪な鼻を持つがゆえ、従姉ロクサーヌへの恋心を胸に秘めていました。

    ある日、シラノは同じ部隊に所属する美青年のクリスチャンに相談を持ちかけられます。自分の従姉であるロクサーヌを想う恋の相談です。これをきっかけにシラノはロクサーヌとクリスチャンの恋仲を仲裁することになります。

    口下手で文才の無いクリスチャンに代わって恋文を代筆し、おしゃべりの内容すらシラノはクリスチャンに付いて行って伝授し続けます。その結果、心惑わす美しい肉体と、華やかな弁舌を持つ一心同体の恋物語の主人公が誕生しました。その甲斐もあってか、クリスチャンとロクサーヌは結婚するのですが、その後、シラノは宿敵の罠にはまり、シラノとクリスチャンの所属する部隊は三十年戦争の最前線に左遷されてしまいます。やがてクリスチャンは流れ弾に当たり、命を落としてしまいました。

    十五年の時が経ち、夫を失ったロクサーヌは修道院に暮らしており、週一回のシラノの訪問を楽しみに生活をしています。ところがある日、シラノは刺客に襲われ、頭に大怪我をしながらもロクサーヌの下に現れました。シラノは瀕死の重傷を負いながらもクリスチャンが生前最後に書いたという手紙を懐から取り出し、読み始めるのですが、辺りはもう夕暮れ、手紙に書いてある文字など読めるわけがありません。ですが、シラノは暗唱を続けます。そこでロクサーヌは気付きます。クリスチャンの手紙は全てシラノが書いていたのだと・・・。

    シラノの行動には、現代のソーシャルワークに通じるものがあると思います。クリスチャンの口下手さをカバーして代弁したのはアドボカシーと言えるし、クリスチャンとの秘密を死の間際まで守りぬいたことは守秘義務を保持したことになります。他人のために自分の技術や知識を惜しみなく発揮する姿勢も目に留まります。

    これは17世紀のフランスが舞台の作品なのですが、帰納的に考えていくと、古来より面倒見の良い義に篤い者が現代のソーシャルワーカーのような役割をしていたと推察され、そういった所からも福祉に携わる人間が持つべき資質と言うものが見えて来ます。シラノのように慎み深くも粋な心意気を持つ人間こそ、今も昔も、そしてこれからも、慕われて続けていくのでしょう。