【映画コラム・#03】「憲法修正第13条ってなんだ?」映画『リンカーン』

こども学部教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラム3回目です。今回は、アメリカ大統領を主人公とした映画『リンカーン』を紹介します。

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2016年11月8日に行われたアメリカ大統領選挙の結果は、世界中に大きな波紋を呼びました。今年はイギリスがEU脱退(BREXIT)を決め、アメリカ合衆国だけでなくヨーロッパ各国でも、政治的な地殻変動が起きています。こんな時代に、映画『リンカーン』から何かを学んでいただければと、選びました。

第2回で紹介した映画『カラー・パープル』については、その後日談、2016年8月にブロードウェイでリバイバル上演されているミュージカルを、私が見てきた話をすると、お約束していました。実は、今夏の私の経験を、浦和大学紀要『浦和論叢』に論文投稿しました。年明け2月には出版され、紙媒体になったものが浦和大学HPの図書館「リポジトリ」を使って読めるようになります。ウェブ上でお読みいただけるまで、今しばらくお待ち下さい。

では、今回の映画『リンカーン』の話を始めましょう。2012年にスピルバーグ監督によって制作監督されました。ご覧になった方もいらっしゃることでしょう。私は2013年3月、ワシントンD.C.へ向かう機内で観て、帰国後劇場で日本語字幕付きでも観ました。今回、この原稿を書くために、もう一度DVDで観直しました。

1860年の大統領選挙で、誕生したばかりの政党、共和党から選出された最初の大統領としてアブラハム(愛称エイブ)・リンカンは当選したのでした。当時のアメリカ社会を二分する問題であった奴隷制度に反対し、廃止を主張した政党が共和党でした。2016年の選挙で勝利した共和党ではありますが、政治的な立場は、現在大きく変わっています。

奴隷制反対を唱えたリンカン大統領の誕生を、南部諸州は受け入れることができず、二段階に渡って連邦脱退が起こり、合計11州がアメリカ合衆国(USA)から離れていったのです。アメリカ南部連合(CSA)という新しい国を作り、「両国」は戦争に突入したのでした。1861年から65年まで、なんと5年間も「兄弟」による「南北戦争」が続きました。この戦争による戦死者数は、アメリカ合衆国が独立戦争から21世紀に至る現在までの、すべての戦争による戦死者の総数をも超える人数で、アメリカ史上もっとも悲惨な戦争となりました。

戦争中の1864年に、二期目の大統領選挙を迎えて、リンカン大統領は再選されました。もちろん選んだのは、南部11州を除いた北部諸州だけでしたが。選挙の前年、1863年1月にリンカン大統領は、奴隷解放宣言を出しました。南部諸州には効力を持たず、北部諸州でも奴隷制度をしいていた州(奴隷州)が対象でした。一日も早く戦争を終えたいと思っていたリンカン大統領は、戦争終了と同時に、奴隷解放宣言が南部諸州には適応されない代わりに、合衆国憲法を修正して、憲法で奴隷制度廃止を明記したかったのです。

この映画は、合衆国憲法修正第13条を議会で通過させたいと尽力したリンカン大統領の足跡をたどっています。話の内容が難しくて、みなさんには敬遠されるかもしれませんが、いくつか「へえ~」と思ってもらえるような場面を紹介して、物知りになっていただきたいと思います。

まず映画冒頭、戦地で若い兵士たちがリンカン大統領を囲んで話し込む場面があります。逃亡奴隷として北軍で黒人部隊に所属していた二人の黒人の若者が、1863年11月のゲティスバーグの戦場で、リンカン大統領が多くの戦死者を弔う演説をしたのを聴いて、感激したことを語ります。その演説の一部を、こう暗唱するのです。「人民の人民による人民のための政府は、この地上から消えることはないだろう」と。

映画では、リンカン大統領の私生活も丁寧に描かれていました。末端肥大症とも言われ、手足が長く大きかったリンカン大統領は、大変な長身でしたが、メアリ夫人と並ぶ場面で、小柄な妻を優しく見下ろしていました。このメアリ夫人は、歴代のファーストレディ(「ミシェル夫人初来日」)の中でも、悪妻の誉れ高い女性でした。歴史家が選ぶ「ファーストレディ・ワーストワン」に常に名前が出たのが、メアリ・リンカンでした。映画では、エイブを愛し、二人の息子を溺愛した良妻賢母であったように描かれていました。

映画で彼女のそばにいつも寄り添っていた黒人女性がいて、台詞では、「ケックリー夫人」と呼ばれていました。メアリ夫人専属洋裁師だったエリザベス・ケックリーは、メアリ夫人が連邦議会下院での討論傍聴に来たときにも、一緒に座っていました。下院での議論に眉をひそめたり、心配そうにしたり、元黒人奴隷としての思いを見て取ることができます。

ケックリー夫人は、リンカン大統領が暗殺されてリンカン家がホワイトハウスから出たあとの1868年に『大騒ぎの陰で、あるいは30年間の奴隷生活とホワイトハウスでの4年間』という奴隷体験記を出版しました。奴隷物語というより、リンカン家の裏事情本のような扱いをされて多くの人に読まれたため、ケックリー夫人とメアリ未亡人とは絶縁状態になりました。

南北戦争終了直後、メアリ夫人と共に観劇中だったリンカン大統領は暗殺されてしまいました。映画では、暗殺場面を直接見せることはせず、映画最後では第2回の大統領就任演説の場面が選ばれました。スピルバーグ監督は、「民主主義とは何なのか?」「リンカン大統領が遺したものは何だったのか?」を観客に問いかけたかったのだと思います。

さて、年明け1月20日新しい大統領に就任するドナルド・トランプ氏は、どのような就任演説を聴かせてくれるのでしょうか。自国の利益のみを追求し、世界のことは二の次にするような政策を執っていくのでしょうか。日本にとって決して無縁ではない、隣国アメリカ合衆国の行く末を、皆さんと一緒に見守る年越しとしたいと思います。年越し前に、安倍首相は真珠湾を訪問するそうです。冬休み明けに、第4回として『パールハーバー』を紹介するつもりです。どうか、よい年をお迎え下さいませ。

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  5. 発売元 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

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