【映画コラム・#02】映画『カラー・パープル』を観て、私の居場所を考えよう!

こども学部教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラム2回目です。新作ではありませんが、1985年に小説が映画化され、2005年にブロードウェイ・ミュージカル化、さらに10年後の2015年にリバイバル上演され、トニー賞最優秀リバイバル賞を受賞した作品、「カラー・パープル」をご紹介します。

今回は、アメリカ合衆国での芸術・文化をめぐる賞をいくつか説明しながら、映画紹介をしていきます。まず、ピュリッツアー賞について説明します。アメリカの新聞人ピュリッツアーの遺産によって1917年に制定された賞で、ジャーナリズム・文学・音楽の各部門でのすぐれた業績に対して、毎年授与されています。1982年にピュリッツアー賞を受賞した文学『カラー・パープル』は、黒人女性作家アリス・ウォーカーによって書かれました。

主人公セリーと、妹ネッティの書簡形式で書かれた小説です。20世紀前半の、南部ジョージア州の農村の黒人社会が舞台になっています。子どもの頃に生き別れになった姉妹の間で交わされる手紙を通して、最初は字を読むこともできなかったセリーが、女性として、人間として成長していく様子が描かれます。

黒人社会に限定した家族や縁者の関係が描かれて、男性から女性に日常的に行われた「暴力」(いわゆるDV)を告発するような内容にもなっています。この小説は、黒人社会の内部告発だとして、アリス・ウォーカーは批判を受けたこともありました。黒人社会において黒人女性たちが、ただ被害を受けたり、耐えたりするだけでなく、抑圧された状況の中でも強く立ち上がり、自ら成長していくことがテーマとなっていますので、人種や性別を超えた多くの読者に読まれていきました。

この反響が、ユダヤ人のスティーヴン・スピルバーグ監督に映画化を決意させたのでした。小説出版から3年目の1985年のことでした。主役のセリー役を演じたのは、ウーピー・ゴールドバーグでした。映画「ゴースト」(この作品でウーピーは最優秀助演女優賞を受賞。黒人女優では2人目、半世紀ぶりの快挙でした。ちなみに1人目は「風と共に去りぬ」のハッティ・マクダニエル)や「天使にラブソングを」で日本でも有名になったウーピーの、ハリウッド映画デビュー作品が、「カラー・パープル」でした。当時のほっそりやせた風貌のために、主役がウーピーだと気づくのに時間がかかるかもしれません。

映画「カラー・パープル」は、公開された1985年のアカデミー賞(この賞は、ハリウッド映画に与えられる賞なので、多くの人が知っていることでしょう)では、話題となり11部門の候補となりましたが、一つも最優秀賞を受賞できない無冠の映画となりました。11部門の中には、ウーピーが主演女優賞候補、二人の黒人女優の助演女優賞候補が含まれていました。

助演女優賞候補の一人は、主人公セリーに、「男からの暴力を許すな!」と諭したソフィア役を演じたオプラ・ウインフレイでした。日本ではほとんど知られていないこの黒人女性は、アメリカ合衆国では超有名人で、知らない人はいません!今年で大統領最終年の8年目を迎えたバラク・オバマ大統領を、8年前に大統領に当選させた立役者は、オプラ・ウインフレイだと言われています。

2010年に『タイム』誌が選んだ「20世紀で影響を与えた人物4人」のうち、唯一の女性だったのが、オプラ・ウインフレイでした。このオプラが、「カラー・パープル」のミュージカル化を企画し、制作したのでした。2005年のことです。

2006年2月にニューヨークへ出張した私は、このミュージカルを観る機会に恵まれました。写真はそのときに購入したプログラムです。ご覧下さい。2006年3月出版予定だった拙稿には、「追記」としてミュージカル「カラー・パープル」について報告しました。2010年に出版した拙著『語り継ぐ黒人女性:ミシェル・オバマからビヨンセまで』(pp.156-162)でも、「カラー・パープル」論を展開しました。

2005年にブロードウェイ・ミュージカルとなって以来、すでに10年が過ぎた2015年に再びブロードウェイに戻ってきたのでした。つまり、リバイバル作品となったのです。そこで、2016年6月に開催されたトニー賞授賞式で、最優秀リバイバル賞に選ばれたのでした。では、このトニー賞について説明しておきます。ニューヨークのマンハッタン島の中心地となる劇場街(南北に長いブロードウェイ大通りの真ん中あたり、タイムズ・スクウェアを中心とする界隈のこと)で上演された作品(ミュージカルだけでなく演劇を含む)に授与される演劇賞のことです。演劇界の功労者アントワネット・ペリーという女性を顕彰して、彼女の愛称であった「トニー」に由来した命名でした。戦後2年目の1947年創設ですので、今年で第70回目となる賞です。

アメリカ合衆国建国期の政治家、アレクサンダー・ハミルトンを主人公として描いた、ヒップホップ音楽満載のミュージカル作品「ハミルトン」が、第70回の話題をほぼすべてさらっていったと言ってもよかった今年のトニー賞授賞式でした。「カラー・パープル」については、最優秀リバイバル賞だけでなく、主人公セリー役をして、圧巻の歌唱力をみせた黒人女優シンシア・エリヴォ(アメリカ人ではありません)は、ミュージカル部門で最優秀主演女優賞を受賞しました。

授賞式途中で彼女が絶唱した歌♪I’m here は、映画においてもとても重要な場面で絶叫されます。DVが止まなかった夫を捨てて、自宅を出て再出発しようとするセリーが夫に向かってこう叫びます。「私は貧しくて、黒くて、そのうえ醜い。でも神様、私は生きている!私は生きている!(I’m here)」と。

アメリカ社会でも、アメリカ黒人社会においても、最下層に追いやられて厳しい状況に置かれてきた黒人女性は、その現状に屈服することなく、立ち上がる力を持つのです。「強く生まれたわけじゃない。強くならざるを得なかっただけ」という、ある黒人女性の言葉は、私が30年間、黒人女性史研究者を続けてこられた原動力となりました。

誰も生まれながらにして強い人はいない、強い心を持って生きていくことで、自らの生きる(I’m here)ことを受け入れていく。そうしてみんな生きていくのだと、私は思います。来週、ニューヨーク出張予定ですが、ミュージカル「カラー・パープル」報告は、次回と致します。みなさま、どうかよい夏をお過ごし下さい!


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