公開日:

【映画コラム・#12】もう9月ですが…「ドキュメンタリー映画『8月28日』」

図書・情報センター長、こども学部教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラム12回目、2017年最新アメリカ情報第2回をお届けします。アメリカ合衆国の首都、ワシントンD.C.からの報告です。

最新アメリカ情報第1回はアメリカの政治現状批判という、難しい話でしたので、前回の最後で書いたように「少し違った視点でのアメリカ報告をしたい」と思っていました。もちろん何か楽しい話題(第5回「ラ・ラ・ランド」のような)にしたいと、あれこれ考えていました。

ところが、今日この原稿を書こうとしている日、8月28日がとても重要な日だと気付き、(HPにアップするのは9月に入っていますが)テーマは決まりました。今回ワシントンで、「8月28日」というタイトルのドキュメンタリー映画を観てきたのです。

首都ワシントンの中心地は、「モール」と呼ばれて、様々な記念館が建って、首都観光の目玉建築が林立しています。モールのど真ん中、まさに首都の中心地に立つのは、初代大統領ジョージ・ワシントンを記念したワシントン・モニュメント(1888年一般公開時点で、169メートルの世界で最も高い建造物)です。その北方に大統領が住まいとするホワイトハウス、東方に国会議事堂、南方には第3代大統領ジェファソンの記念堂、さらに西方、ヴァジニア州との州境であるポトマック川沿いには第16代リンカン大統領を記念するリンカン・メモリアルが!

モールには、スミソニアン博物館群が沢山建っています。1903年にライト兄弟が飛んだ飛行機や、1927年にパリまで単独無着陸飛行をしたリンドバーグのスピリット・オブ・セントルイス号、さらに1945年8月6日に、ヒロシマに人類初の原子爆弾を投下したエノラ・ゲイ号を展示した国立航空宇宙博物館、歴代のファーストレディのドレスまで展示した国立アメリカ歴史博物館、美術館であるナショナル・ギャラリーなど、など。

スミソニアン協会によって管理されるこれらの博物館や美術館は、すべて無料で見ることができるのです。無料ではあっても、整理券が配布され入場は制限されています。特に新しくできた博物館の場合はなおさらです。映画コラム第10回沈黙の回の最後で、「新装なった「国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館」を、友人ジャネット(ハワード大学文書館の元司書)の案内で見学する予定です」と書いていました。ところがジャネットとは彼女の仕事の都合で、到着した8日だけしか会えず、博物館見学は自分一人で行うことになりました。


北側から見た国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館。右上に見えるのがワシントン・モニュメントの先端

北側から見た国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館。右上に見えるのがワシントン・モニュメントの先端

実は、この博物館は一般公開以降、1周年を迎える前に、入場者は200万人に迫って、超人気博物館となり、簡単に見学ができないことは6月に東京で開催されたアメリカ学会での研究発表報告を聞いて、覚悟していました。当日早朝6時半からのとても大変な努力(ネット予約)にも拘わらず、当日入場券を入手できませんでした。絶望的な気持ちで落ち込んだことは、言うまでもありません。

ところが!結果的には国立アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館(NMAAHC)に入ることができたのです!その「秘策」については、ここで公表しない方がいいと思いますので、無事入館できた成果だけお伝えすることにします。

南西側から見たワシントン・モニュメント全体と左側下にNMAAHC

写真にあるように、ワシントン・モニュメントのすぐそばに、昨年9月に一般公開された新たな博物館に、北側の入り口から入ることができた私は、「入れた!入った!入った!」と日本語で叫び、勇んで見学を始めました。朝11時のことです。

見学ルートの出発点に行くためにエレベーターで地下3階まで下りることから始まりました。16世紀のヨーロッパまで歴史をさかのぼり、奴隷貿易という諸悪の根源の解説から見学を始めました。一つ一つの展示品を丁寧に見ていき、地上へ戻ってきた時には午後3時になっていました。4時間もいたのに、全部を見ることはできず、さらに地上3階に展示されている文化遺産を見学する時間は私には残されていなくて(国会図書館文書館は5時に閉館するので)、名残惜しいものの見学を終わりにすることにしたのです。

退館するはずでしたが、導かれるように入り口階にある映画上映会場に入ることになりました。「もうすぐ開演します!」という案内係の声に、何が上映されているのかもわからず会場に入ったのでした。

ここで見たのが、「8月28日」と題された25分間のドキュメンタリー映画でした。原題は、”August 28: A Day in the Life of a People” です。帰国後調べてわかったことですが、この作品の監督は、エイヴァ・デュヴァーネイ(Ava Du Vernay) という黒人女性で、2016年以来、大人気のテレビ番組 Queen Sugar の製作総指揮もしているそうです。日本時間9月18日にエミー賞授賞式が同時中継されるようなので、きっとここでも話題になる作品なのだと思います。

アメリカのテレビ番組を日本で見る機会は少ないでしょうが、ハリウッド映画であれば容易に見られます。2014年に公開された映画 Selma(邦題「グローリー:明日への行進」)も彼女の監督作品です。今日、8月28日にとても関係のあるキング牧師が主人公で、1965年、アラバマ州セルマで起こった「血の日曜日事件」を題材に、黒人の権利獲得のために苦悩し、闘った人々を描いた作品でした。すでにレンタルされているので、いつでも見られるはずの映画です。


キング牧師記念碑の上方部(この碑を囲む壁にはキング牧師の残した多くの言葉が刻まれている)

この映画の主人公キング牧師のことは、日本では高校生や中学生でも知られるようになりました。英語の教科書で扱われるからです。1963年8月28日に行われたワシントン大行進で、前述したリンカン・メモリアルの前で行った演説 “I have a dream” speech が英語の教材として用いられるからでした。リンカン・メモリアルから、朝鮮戦争記念碑を越えジェファソン記念堂に向かったところに、キング牧師記念碑もあります。今回見てきたので、その写真も紹介します。

1963年だけでなく、あと4件、同じ8月28日にアメリカ黒人史にとって重要な出来事が起こっていたのです。古い順に箇条書きしてみます。

  1. 1833年、大英帝国の領土内での奴隷制度廃止を大英帝国議会が決定した。
  2. 1955年、ミシシッピ州モーネイでシカゴから来た少年エメット・ティルが、白人女性に声をかけたという理由で、虐殺された。
  3. 2005年、ハリケーン・カトリーナ上陸でニューオーリンズの黒人居住区に甚大な被害が出た。
  4. 2008年、バラク・オバマが民主党全国大会で大統領候補者指名を受けた。(黒人大統領誕生の起点)

これらの5つの歴史的事実を、ハリウッド俳優による演技を交えながら紹介し、偶然同じ日に重なったアメリカ黒人史にとっての「画期」をかみしめたのでした。5つの歴史事実に関する説明は、後期科目「アメリカの生活と文化」の「ヒップホップ」の回に続けたいと思います。

歴史を知っている人は知らない人に伝える義務があります。過去をふまえて未来を見すえないといけないからです。次世代に語り継ぐことは、今を生かされている私たち皆が続けていかなければならないことです。過去を忘れて未来はありませんから!

2回目も難しい話になってしまい、申し訳ありません。首都観光をするということは、歴史をたどることでもあります。1789年最初の首都はニューヨーク、暫時フィラデルフィアに移動して、1800年から現在の人工都市、ワシントンD.C.(District of Columbia)に遷都しました。後期科目「アメリカの生活と文化」の後期初回講義は、テキスト『スクリーンで旅するアメリカ』に基づいて、「さまよえる首都物語」と致しましょう。

今度こそ、楽しい話題を探します。モールのリンカン・メモリアルや航空宇宙博物館が舞台となった映画『ナイト・ミュージアム2』を紹介して、皆さんをアメリカ合衆国の首都に再びご招待することにしましょう。次回を楽しみにお待ちください。もうすぐ大学の後期が始まってしまいますね。


資料・願書請求(無料)はこちらから