【映画コラム・#09】『沈黙』と『ハクソー・リッジ』:まずは選挙に行きましょう!

こども学部教員、岩本裕子(ひろこ)による、映画コラム9回目です。年明け以降、紹介すると話し続けてきた『沈黙』を題材にします。さらに『沈黙』と同じ俳優が主役をした『ハクソー・リッジ』も合わせて紹介します。

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「開花宣言を待ちたい」という最後の言葉でお送りした、前回の映画紹介からすでに3ヶ月も経ってしまいました。新入生は、すでに前期も終盤となり、前期試験に向けて勉強は進んでいますか?

 6月23日の「沖縄慰霊の日」(Okinawa Memorial Day)週には、歴史入門では毎年同様、沖縄戦の講義をしました。6月23日まさに当日だった金曜日には、Ⅲ限英語コミュニケーションBのクラスでは、講義後半の30分をオキナワの講義に変えて、受講生たちに72年前のことを考える時間としてもらいました。


© Cosmos Filmed Entertainment Pty Ltd 2016
前田高地に上がるためにハクソー・リッジを登る米兵たち

 この翌日、日本で映画公開されたのが、『ハクソー・リッジ』でした。前回、アカデミー賞分析最終回のタイトル「ハクソー・リッジって何?」をもう一度読んでいただければありがたく思います。

 沖縄では前田高地と呼んでいた場所の崖が、のこぎりのようだったのでアメリカ軍が Hacksaw Ridge と呼んだのでした。宗教上の理由(セブンスデー・アドヴェンティストというキリスト教の一派)から武器を持たない、闘わない、という条件で「衛生兵」として従軍したデズモンド・ドスという実在の人物が主人公です。この役を演じたのは、『沈黙』の主人公セバスチャン・ロドリゴ神父の役をしたアンドリュー・ガーフィールドでした。

 『ハクソー・リッジ』日本公開翌日25日には、浦和大学では一日オープンキャンパスが開催されました。この日に、学生スタッフとして高校生を迎える役目を果たしてくれた1年生のKさん(彼女は高校生の頃からこの役目を果たしたいと念じて、本学に入学してくれたそうです)が、オープンキャンパス終了後に、私にこんな話をしました。「先生、金曜日の英語のクラスでオキナワの講義をしてくれてありがとうございました。きょうこれからナイトで『ハクソー・リッジ』を見に行きます!」と。嬉しくて思わず「主人公は、『沈黙』の主人公セバスチャン・ロドリゴ神父の役をした俳優よ!」と話すと、「『沈黙』は本当に考えさせられる映画でした。今もまだ考えつづけています」とも。


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米兵退却後に一人残ったデズモンドが負傷兵を救い縄で降ろす場面

 なんと心強い1年生を迎えたことか!彼女に勇気づけられて、私も月曜朝一番で『ハクソー・リッジ』を観る決心をしました。映画『ブレイブハート』(Braveheart:1995)や『パッション』(The Passion of the Christ:2004)で有名な俳優で監督のメル・ギブソン作品ですから、凄まじい戦闘場面が続くことは容易に想像できたので、なかなか腰を上げられませんでしたが、Kさんのおかげで思いきることができました。『ハクソー・リッジ』を見終えて、通勤車中でパンフレット(アメリカ史研究者の先輩、油井大三郎先生も執筆)を隅から隅まで読み、正直、気持ちはかなり下がっていきました。

 ハリウッドでは戦争映画は、長く娯楽作品であり続けました。ヒーローを讃え、戦争を賛美するものでした。もちろん、戦闘場面でスクリーンに血が飛び散ったりしませんし、主人公はあくまでヒーローのままでした。

 ハリウッドで戦争映画の傾向が変わり始めたのは、スピルバーグ監督の『プライベート・ライアン』(Saving Private Ryan:1998)からでした。1944年6月6日のノルマンディー上陸作戦(D-Day)を舞台にした戦争映画ですが、映画の冒頭20分以上、「オマハ・ビーチ」でのいわゆる「リアルな」戦闘場面が続きます。

 戦争はゲームではない、人間と人間が殺しあうのだということに正面から向き合い、戦争で失った命は戻ってこないこと、ゲームのように「リセット」することで命が復活したりしないことを「戦争を知らない世代」に伝えたいというスピルバーグ監督の反戦の「想い」がつまった映画でした。

 毎年6月6日直前の「歴史入門」では、1944年時点の第二次世界大戦の状況、ナチスに占領されたフランス、ノルマンディー地方に、英米仏加の連合軍が上陸していく過程を説明した後で、『プライベート・ライアン』の冒頭10分を見せることにしています。銃撃されて内臓が噴き出た米兵が「ママ~」と叫ぶ場面で一時停止し、「これが戦争だね。戦争をする国になるかもしれない日本のことを考えて!」と講義を閉じることにしています。

 3年後の2001年に、『スターリングラード』(Enemy at the Gates:2001)という映画も公開されました。1942年の独ソ戦、スターリングラード攻防戦を描いた映画でした。ヴォルガ川での凄まじい戦闘場面は、『プライベート・ライアン』のノルマンディー「オマハ・ビーチ」の場面を一回りも二回りも超える強烈な描写でした。思い出しても、気持ちが沈みます。実在の狙撃主が主人公(俳優はジュード・ロー)でしたが、冒頭場面の衝撃が大きすぎて、狙撃主をめぐる話も素晴らしい反戦映画だったのに、その展開を楽しむことは難しかったことも思い出します。


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2度目の攻撃でハクソー・リッジを登る前に祈るデズモンド。隊の兵士たちは彼の祈りが終わるのを待っている。

 今年度最初4月の歴史入門の講義では、『ハクソー・リッジ』のチラシを全員に配布していました。まず全部読ませて「この戦争映画の舞台は何戦争で、戦場はどこかを確認しなさい」と話しましたが、受講生はどこが戦場なのかを理解できませんでした。チラシに明記していなかったのです。

 舞台は、日本で唯一戦場となった沖縄で、当時の日本政府に「捨石」にされたところです。沖縄戦の一端が描かれている映画にもかかわらず、日本公開時点でそのことを強調しないことに疑問を持ちました。その後のメディアでの映画紹介でも、ただ単に主人公のデズモンド・ドスという「英雄」を強調するものばかりで、残念でした。

 6月26日、映画を観た直後の歴史入門開口一番、「『プライベート・ライアン』を越える戦闘場面だったよ」と受講生には報告し、戦争の意味を考えるためにも、ぜひ観に行くように話したのです。加えて、早速に見に行ったKさんが、公開時に『沈黙』も見ていたことも伝えました。受講生が考える大学生であり続けてほしいものです。

 さてやっと『沈黙』について話します。前述のような学生ばかりだと、余分な説明はいらないのでしょうが、ゼミ生を初めとする私の授業を受けている学生たちに「映画『沈黙』は観た?小説『沈黙』を読んだことある?」と聞き続けていますが、反応は鈍くて残念に思っていました。だからこそ、Kさんのエピソードはこの上ない喜びでした。

 日本人作家、遠藤周作による小説『沈黙』(1966年出版)を、1988年に初めて読んで衝撃を受けたマーティン・スコセッシ監督は映画化を決意し、15年以上かけて脚本を書き上げ、28年目に映画化を実現したのでした。

 イタリア系アメリカ人で敬虔なカトリック教徒のスコセッシ監督は、元々神父になりたくて神学校に進学しましたが、結局中退してニューヨーク大学映画学科に方向転換して、今に至っています。映画『ギャング・オブ・ニューヨーク』(Gang of New York:2002)で、カトリック教徒である自分自身のルーツを探っています。(歴史入門テキスト『スクリーンに投影されるアメリカ』pp.114-119)

 映画『沈黙』では、1640年に日本で布教活動をしていたイエズス会宣教師フェレイラが激しいキリシタン弾圧に屈して「棄教」(信仰を捨てること)したことを知った、フェレイラ神父の弟子、セバスチャン・ロドリゴ神父がその真偽を確かめるために日本にやってくる場面から始まります。

 多くの日本人は、宗教や信仰に対して間違った印象を持ち、なるべく関係したくないという態度を取ります。信仰を強制されるのではなく、信仰を学習することで、世界で起こっていること(シリア内戦やISからヨーロッパへの移民など)を考えるきっかけにしようとしないことは残念です。

 大学生の年齢であっても、非常に不寛容で、知らないことを知ることが教養を身につける第一歩にもかかわらず、宗教を学ぶことを避けようとします。日本人が世界で生きていくためには、宗教(特に、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教という同じ唯一神を信じる兄弟宗教のこと)を学ぶ必要があるのに、それに気付いていないことも残念です。歴史を学ぶとは、考えることを意味します。ところが歴史を勉強することは暗記すること、試験のためだけに暗記すればいいのだと思い込んでいること、これからの日本を担う次世代がこんな状況であることは憂うべきことです。

 日常生活で、宗教とはほとんど無縁で生きている人たちには、映画『沈黙』を観て、「神を信じる」ことの意味、キリスト教徒たちの「想い」を知ってほしいと思います。1549年8月15日(聖母マリア昇天祭)、フランシスコ・ザビエルが鹿児島に入ってから468年目の今年、キリスト教のことを考える時間を作ってほしいと思います。長崎の人たちが、守り続けた「信仰」についても、学ぶ機会になりますように!

 最後に蛇足ですが、俳優アンドリュー・ガーフィールドのデビュー作は、2007年公開映画『大いなる陰謀』(Lions for Lambs)だったようです。筆者は同作品の劇場パンフレットに原稿を依頼されて、映画評を書いたことがあります。

 この映画で、ガーフィールドが演じた大学生トッド・ヘイズは、経済的に恵まれた環境に育ちながらも学業の道を捨てようとする現役大学生の役でした。指導教授(主役と監督を務めたロバート・レッドフォード)の研究室で、戦争について議論する場面がありました。指導教授のかつての教え子に、大学院に進学したいと思いながらも、学費が払えない二人の学生が、除隊後の奨学金に期待して、入隊して戦地アフガニスタンにいたのです。

 指導教授自身が、自分の意志ではなくベトナム戦争に従軍した経験があることなども伝えたのでした。「国のために命をかけることができるのか?」というテーマの映画で、ガーフィールドが演じた大学生は、2007年時点の「今風の」大学生で、国家のために命をかけるなどありえない、という考えでした。みなさんは、どうですか?

 3か月以上連載原稿を書く時間を作れなかったものの、なんとか6月最終日に、連載9回目をお届けできてほっとしています。6月は沖縄のことを考える月でしたので、なおさらです。今の日本の状況を考えながら、今あなたにできることは何か、と考え続けてほしいと思います。

 明日7月1日、文化座の公演「故郷」(水上勉原作)を見に行く予定です。翌日7月2日は、都民である私は都議会議員選挙に行く日ですが、仕事の予定が入っているので、7月1日に期日前投票に行ってから池袋へ向かいたいと思っています。

 日本では18歳になれば、皆投票できるようになりました。大学生のあなたたちにできることは、現在あなたの国で起こっていることを凝視して、あなたの年齢で考えられることを精一杯考えて、投票や意思表示をすることです。投票権は、かけがえのない貴重な自分の権利です。どうか、大切に!

 特に女性参政権は、戦後になってようやく勝ち得たものです。終戦から3か月後の1945年12月衆議院議員選挙法が改正され、女性の国政参加が認められました。1946年4月の衆院選が女性にとって初めての投票権行使でした。同じ年の11月3日(明治天皇の誕生日、現在「文化の日」)に公布された日本国憲法(半年後の1947年5月3日に施行されたのでこの日は「憲法記念日」、今年は70周年)に参政権が明記されたのです。

 男子学生はもちろん、女子学生は貴女の選挙権が、決して生まれながらに与えられていたものではなく、多くの女性の先輩たちの血と汗の結晶だということを自覚して、投票所へ向かってほしいと思います。

 今回は、映画『沈黙』を通して信仰心について、『ハクソー・リッジ』を通して戦争について、いづれも難しいテーマでしたが、問題提起をしました。みなさんには考え続けてほしいと思います。『大いなる陰謀』の大学生トッド・ヘイズは、国家のために命をかけるなんてありえない!と思っていたのに、指導教授と議論を続けるうちに、真剣に国家のこと、戦争のことを、他人事とは思わず、自分自身のこととして考え始めました。

 皆さんにもそうあってほしいと思います。18歳以上の皆さんは、まず選挙へ行くこと!ここから始めましょう!


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